SRをめぐる問題点とは?
機能性表示食品の科学的根拠をめぐる課題の多くは、研究レビュー(システマティックレビュー:SR)の問題と言い換えることができる。届出の約95%をSRによるものが占めているからだ。
SRとは、これまでに報告された研究論文を網羅的に検索して収集し、科学的根拠を分析する手法。効果が認められなかったとする研究論文も含め、複数の研究結果を精査することから、最も信頼性の高い手法と言われている。
消費者庁に届け出たSRが「何を実施して何を見いだしたのか」を正しく報告していると言うためには、SRの国際指針である「PRISMA声明」のチェックリストに準拠することが基本となる。チェックリストでは、研究論文の収集に用いた情報源、研究論文のバイアスリスクを評価するために用いた方法をはじめ、個別の研究の結果や各研究を統合した結果など、27項目について正確な記述を求めている。
しかし、機能性表示食品のSRをめぐっては、さまざまな問題点が噴出している。例えば、データベースで研究論文を収集する際に、すべての期間を対象とせずに検索しているケースが散見される。届出者にとって不都合な研究論文を排除するための行為という疑いもある。また、不適切な研究デザインによって生じる誤差のリスク(バイアスリスク)が高いのにもかかわらず、当該論文をSRに使用するケースも少なくない。
このようなPRISMA声明に適切に準拠していないSRの横行は、制度の信頼性を揺らがす深刻な問題として批判されてきた。
消費者庁に求められる厳格な運用
そうした事情を踏まえ、消費者庁は機能性表示食品制度の改正で、今年4月1日以降の新規の届出に対し、PRISMA声明2020への準拠を必須とする。すでに届出済みのものについても、従来の2009版から2020版への移行を求める方針だ。
PRISMA声明2020は、2009版と比べて項目を細分化し、より透明性の高い報告を求めている。消費者庁が1月17に公表した告示(案)では、チェックリストの各項目と番号を記載し、それぞれの内容を踏まえた記載とすることを法令化した。これにより、従来見られた複数の項目をまとめて記載するという、届出者にとって都合の良い報告ができなくなると考えられる。
また、SRに用いた各研究論文を総合的に評価してまとめられた「エビデンス総体」について、その確実性(信頼性)の評価方法と結果を記載する項目が加わったことも特長の1つ。これまでに、エビデンス総体の評価については、「非直接性(SRで設定した仮設との齟齬)」「不精確(効果推定量の幅が広い)」「非一貫性(結果のばらつき)」などの記述が不十分な点が問題視されてきた。4月1日以降のPRISMA声明2020への準拠では、これらを的確に記述することが求められることから、1報のみの研究論文によるSRの場合、“確実性”を十分に説明しきれないという指摘もある。
対象とした研究論文が1報のみのSRをめぐっては、「優れた論文ならば1報でも問題ない」と主張する業界関係者も多い。その一方で、SR作成の代行業者からは、「最初から1報しかないとわかっていながら、SRを作成してほしいという依頼が多い」という声が聞かれるなど、機能性表示食品制度に対する信頼性を損なう要因の1つとなっている。そうした状況を解消する観点からも、PRISMA声明2020への準拠で消費者庁には厳格な制度運用が求められそうだ。
一気にレベルアップの感も
PRISMA声明2020への準拠は、今年4月1日から新規の届出で必須となる。現在、健康食品業界内では「(2020準拠の届出は)受理されるかどうかわからない状況にある」(原料メーカー)という悲鳴も。従来と比べてより透明性のあるSRが求められることから、大手・中小を問わず、多くの届出者が苦戦中とみられる。一部の事業者では、2009版に準拠した届出を駆け込みで消費者庁へ提出する動きも出ているという。
4月からの施行に先駆けて、すでにPRISMA声明2020に準拠した届出は出始めているが、昨年11月ごろ(公表時点)を境に、一気にレベルアップした印象が持たれている。これらのSRは、著名な学識経験者や作成を請け負う某社が監修したものだ。今後は彼らが手がけた直近のSRを参考に、各社が追随すると予想される。
(つづく)
(木村 祐作)



この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。