2026.08.07 調査・統計
ECアナリストによる解説シリーズ 『このデータが面白い!』 第10回:SNS利用度の変化と現在地をデータでさぐる
(株)デジタルコマース総合研究所代表の本谷(もとたに)と申します。ECアナリストによる解説シリーズ『このデータが面白い!』の連載も、月一ペースを維持しながら今回で10回目を迎えました。今回のテーマは「SNSの利用状況」です。
SNSとECは切っても切り離せない関係にありますが、SNSは年代別やツール別に利用度が異なるため、SNS戦略ではその違いを理解しておく必要があります。また、消費者は普段SNSを頻繁に利用していることはわかっていても、どれくらいの時間利用しているのか(言い換えればどれくらい生活に密着しているのか)データで理解している方は多くないと思います。総務省が毎年発表している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」には、それらに関するデータが記載されており、私も重要な情報源として活用しています。それでは具体的に見てみましょう。
・対象データ
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」 ※各年8月時点の数値
https://www.soumu.go.jp/iicp/research/results/media_usage-time.html
■前回記事
ECアナリストによる解説シリーズ 『このデータが面白い!』 第9回:年代別での「EC利用率」の実態を知る
世代によって異なるSNSの利用傾向
先ずは年代別/ツール別のSNS利用率を見てみましょう。LINEとYouTubeは世代による差が比較的小さく、幅広い年代で利用されています。LINEは20~60代でいずれも9割前後の高い利用率を維持しており、日常のコミュニケーション手段として定着していることが分かります。同様にYouTubeも高い利用率を示しています。
一方、Instagram、X、TikTokは若年層ほど利用率が高く、年代が上がるにつれて低下する傾向が見られます。特にTikTokはその傾向が顕著で、20代では61.5%と高い一方、60代では21.2%まで低下しており、InstagramやX以上に若年層への偏りが強いサービスとなっています。
このようにSNSは「幅広い世代に利用されるSNS」と「若年層を中心に利用されるSNS」の二極化が進んでいることが分かります。EC事業者にとっては、一つのSNSだけですべての世代へアプローチすることは難しくなっており、ターゲット層に応じた媒体選びが重要です。幅広い年代への情報発信にはLINEやYouTubeが有効である一方、若年層への認知拡大にはInstagramやTikTokなどの活用が効果的であり、それぞれの特性を踏まえたSNS戦略が求められます。
成熟期に入ったSNS利用、一方TikTokは成長を継続
続いて、2019年から2025年までのSNS利用率の推移を見てみましょう。LINEとYouTubeは一貫して高い利用率を維持しており、SNS利用の基盤となっています。Instagram、X、TikTokは長期的には利用率が上昇している一方、2024年にはTikTokを除く主要SNSで前年を下回る動きが見られました。2025年にはLINE、YouTube、Instagram、X、Facebookで利用率が持ち直したものの、いずれも2023年の水準までは回復していません。一方、TikTokは2024年、2025年とも利用率を伸ばし続けており、主要SNSの中でも成長が続くサービスとなっています。
TikTokを除く主要SNSの利用率が伸び悩んでいる理由として、SNS利用が成熟期に入った可能性が考えられます。加えて近年は生成AIの普及により、情報収集や検索の手段がSNSからAIへ一部移行し始めている可能性も考えられます。現時点で因果関係を断定することはできませんが、ユーザーの情報接触行動は変化しつつあるようです。EC事業者にとって、SNSだけでなくAIも含めた複合的な情報発信戦略の重要性が高まっていると言えるでしょう。
EC市場では利便性や決済の迅速性を重視する消費者が増え、クレジットカードや電子マネーなどキャッシュレス決済の利用が拡大しています。一方、代金引換は大きく減少しており、今後はデジタルウォレットやスマートフォン決済など、より利便性の高い決済手段の普及が一層進むと考えられます。
SNSは高い「接触時間」を維持
SNSの「利用時間」にも着目してみましょう。2025年のSNS利用時間は、平日が全体で86.1分、休日が113.7分となり、休日のほうが約3割長く利用されています。年代別では20代が最も長く、平日は117.0分、休日は183.7分と突出しています。
一方、年代が上がるにつれて利用時間は短くなる傾向が見られ、60代では平日47.5分、休日49.7分となっています。また、2020年から2025年までの推移を見ると、全体の利用時間は平日・休日とも80~110分台で推移しており、大きな増減は見られず、SNS利用時間は高い水準で安定しています。
SNS利用率は頭打ちの傾向が見られるものの、利用時間は大きく減少しておらず、ユーザーの接触時間は維持されています。EC事業者にとっては、新たな利用者を増やすこと以上に、既存ユーザーとの接点の質を高めることが重要です。短時間でも印象に残るコンテンツや、継続的に接触できる情報発信が、これまで以上に求められるでしょう。
動画視聴が日常生活の中心に
ネ動画投稿・共有サービスの視聴時間についても見てみましょう。平日が全体で134.9分、休日が179.5分となり、SNSの利用時間を大きく上回っている点が特徴的です。 年代別では20代が最も長く、平日は166.1分、休日は236.8分と、休日には約4時間視聴しています。
一方、年代が上がるにつれて視聴時間は短くなる傾向が見られるものの、60代でも平日106.9分、休日130.4分と2時間前後視聴しています。また、2020年から2025年までの推移を見ると、2025年の平日の視聴時間は過去最高となり、動画視聴が日常生活により深く浸透していることがうかがえます。
動画投稿・共有サービスは、幅広い世代で日常的に利用される情報・娯楽メディアとして定着しています。EC事業者にとっても、静止画やテキストだけで商品を伝える時代から、動画によって商品の魅力や使用方法を伝える時代へと移行していますので、ショート動画やライブ配信を活用した動画マーケティングの重要性がさらに高まるでしょう。
利用(視聴)時間の視点で捉える「メディア接触行動」のネットへのシフト
一連のSNSデータとは少し視点が異なりますが、最後に、テレビとネットの利用時間の変化について触れておきたいと思います。2020年から2025年までの推移を見ると、テレビ視聴時間は平日・休日とも減少傾向にある一方、ネット利用時間は増加しています。平日では2024年にネット利用時間(181.8分)がテレビ視聴時間(172.8分)を初めて上回り、2025年もその差はさらに拡大しました。休日もネット利用時間は増加を続け、テレビ視聴時間との差は年々縮小しています。人々のメディア接触行動は、テレビ中心からネット中心へと大きく変化していることがうかがえます。
まとめ
今回の調査からは、世代ごとのSNS利用の違い、主要SNSの成熟、動画視聴時間の拡大、そしてテレビからネットへのメディアシフトなど、生活者の情報接触がデジタルを中心に変化している姿が明らかになりました。EC事業者にとっても、消費者との接点は検索、SNS、動画など多様化しており、それぞれの特性を踏まえたコミュニケーション戦略がこれまで以上に重要になっています。
一方で、生成AIの普及により、情報収集や商品探索の手段そのものが変わり始める可能性があります。現時点ではSNSの利用率や利用時間への影響を示すデータは十分ではありませんが、今後はAIが新たな情報接点として定着することで、SNSとの役割分担や利用実態が変化していくことも考えられます。EC事業者にとっては、SNSだけでなくAIを含めた消費者接点の変化を継続的に把握し、柔軟に対応していくことが重要になるでしょう。
以上
【筆者プロフィール】
本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役 ECアナリスト
シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。その他日本政府の調査研究案件の実績多数。
2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、豊富なデータに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイス、および講演・執筆活動等を行っている。
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