“ちょっと待った”→アップセルへ
ここ1~2年で、クローズアップされるようになった新たな手口がある。申し込みを完了させようとする消費者に対し、“ちょっと待った”と呼びかけて、アップセルを行う手法だ。「今なら〇〇プレゼント」「特別クーポンを贈呈」などとうたって、単品購入から定期購入コースへ誘導したり、しばりのない定期購入コースからしばりのあるコースへ変更させたりする。
“ちょっと待った”の手法は、消費者を誤認させるダークパターンの1つに該当し、特定商取引法に違反する場合もある。消費者被害の増加を受けて、行政側も取り締まりに乗り出した。
特典クーポンの使用を急かす
消費者庁は今年6月27日、美容液を販売する通販会社A社に対し、特商法違反により、6カ月間の業務停止を命じた。A社の手口を見ていく。
自社サイトで美容液を販売する際に、「集中ケアコース」として、「〇回は絶対使ってといったよくある購入回数の縛りはなし!」「購入回数の縛りはなし!」と宣伝。いつでも解約可能なしばりのない定期購入コースと強調していた。
ページの途中に出てくる「初回のみで解約OK」といった記載があるボタンを押すと、チャットボットなどの申込受付画面が出現。しばりのない定期購入を申し込むと、「集中ケアプレミアムコース」というページに遷移する。
「集中ケアプレミアムコース」のページには、「ご注文完了」として「ご注文ありがとうございました」という表示や、「注文完了情報」として「集中ケアコースをご注文のお客様に 10分間限定で 今すぐ使える特典クーポンプレゼント」と表示がある。
これに加え、「特典クーポン失効まで09:33:85」とカウントダウンタイマーによって残り時間を表示し、特典クーポンの使用を急かしていた。
次に、「先ほどご注文いただいた集中ケアコースは初回1本が定価の77%OFF、2回目以降が33%OFFになる大変お得なコースです」としつつ、「ですが」と注意を引く。
そして、「このページで発行された集中ケアコースご注文者様限定の特典クーポンをご利用いただき、集中ケアプレミアムコース(4回定期)へお切替えいただきますと、2回目以降のご注文が現在の価格よりさらに10%OFFとなり最もお安くお求めいただけます」と説明していた。
さらに、スクロールして行くと、ページの最後に「ご注文内容の確認」が出てくる。そこには、小さな文字で「※本コースは『集中ケアコース』からのお切り替えコースとなります」「※本コースは4回のお受け取りが必須となります」と表示していた。
「ご注文完了へ」のボタンを押すと、4回分を受け取るまで解約できず、合計4万円以上を支払う定期購入コースの申し込みとなるという仕掛けだった。
4回購入が条件のしばりのある定期購入コースに
このように、「集中ケアプレミアムコース」の「ご注文完了へ」というボタンは、単に特典クーポンを利用するためのものではなく、4回の購入が条件のしばりのある定期購入へ申し込むためのものだった。
消費者庁では、「4回しばりがある旨の表記までなかなかたどりつかない」「消費者はよくわからず、読み飛ばしていく」と指摘。分量・価格・契約解除に関する事項と、新たにしばりのある定期購入コースの申し込みとなることについて、消費者を誤認させるような表示をしていたと判断した。
“ちょっと待った”の手法は法令違反の恐れ
続いて、消費者庁は今年9月10日、美容クリームを販売する通販会社B社に対し、特商法違反により6カ月間の業務停止命令を出した。
B社は自社ウェブサイトで、「お得すぎて、なにか裏があるんじゃ?と疑ったんですが…安心の購入回数の縛りなしでした」「詐欺広告にありがちな『最低○回は購入してください』という『購入回数のお約束なし』」と強調していた。
また、自社ウェブサイトに出てくる「初回限定 高級ファンデ無料 クーポン適用で1,980円 最安値で申し込む!」「公式サイトはコチラ 80%OFF 購入回数の縛りなし! 1人1回限り 通常価格10,945円→1,980円 送料無料」と表示されたボタンを押すと、チャットボットページの定期購入コースの申込確認画面へ遷移する。
申込確認画面では、ピンク色で目立つ枠内に「【注文内容確認】◆ご注文内容◆:〇〇コース コンビニ後払い決済初回:1,980円(税別)/2,178円(税込)」「お支払い金額2,200円(税別)/2,420円(税込)」などと記載。定期購入契約の販売条件のうち、最初に引き渡す商品の販売価格等のみを分離し、強調して表示していた。
このように、税込2,178円で1本を購入できて、2本目以降の購入は不要であるかのように表示してものの、遷移したチャットボットページから申し込めるコースは、2回目の配送予定日の15日前までに解除の連絡をしなければ、2回目以降の商品の代金の支払いが必要となる期限の定めがない定期購入コースだった。
2つの特商法違反事件を通して、消費者が申し込もうとした際に“ちょっと待った”と呼びかけて、「特典」「お得プラン」をアピールしてアップセルを狙う手法は、法令に抵触する恐れがあると言える。
ダークパターンの排除が喫緊の課題に
問題のある定期購入商法は、ダークパターンに該当する。現行法の規制が及ぶケースもあれば、及ばないケースもある。消費者庁が今年3月に公表した「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」をベースに、定期購入商法とダークパターンの関係を見ていく。
定期購入商法に関するダークパターンの代表例に、「こっそり(スニーキング):隠れ定期購入/強制的継続」がある。初回価格が割安と強調されていることに対して定期購入契約であることが不明瞭なケースや、定期購入の申し込みであるのに最終確認画面には初回分の価格しか表示されていないケースなどが該当する。
「インターフェイス干渉:隠された情報」も代表的なパターン。強調表示と比べて、定期購入の解約条件やクーポン・サービスの利用条件が小さく目立たないケースなどがある。
「インターフェイス干渉:偽りの階層表示」は、事業者が望む選択肢が目立つというもの。チャットボックスの注文画面に、小さな文字による説明の後に「注文を確定」という大きなボタンの表示があるというケースなどが該当する。
「インターフェイス干渉:感情のゆさぶり」は、消費者に特定の選択肢を選ばせるため、感情を利用して操る言い回しを用いる手法。今回フォーカスした“ちょっと待った”と呼びかける手法も、これに該当する可能性がある。
「妨害:キャンセル困難」は、定期購入商法で最も深刻な問題と言える。いつでも解約できると強調する一方で、解約料が発生することを目立たないように表示しているケースなどがある。
ダークパターンを放置していると、法令違反に問われる恐れが生じる。規制が及ばない場合であっても、消費者に誤認を与えることから、通販会社にとってダークパターンの排除は喫緊の課題となっている。
(木村 祐作)

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