2025.10.24 ECモール
ネットスーパー転換期!進む再編や事業見直し
コロナ禍で需要が拡大したネットスーパーだが、撤退や再編、事業見直しが相次ぐなど業界の動きが活発化している。大手プラットフォーマーや大手スーパー、さらに新興企業のクイックコマースといったプレイヤーが矢継ぎ早に新たな取り組みを発表し、競争が激化。まさに転換期を迎えている。
楽天と西友は合弁解消し単独運営へ
楽天は2024年8月、子会社である楽天西友ネットスーパーを楽天マートに商号変更し、同社が運営してきた「楽天西友ネットスーパー」の名称も「楽天マート」に変えると発表した。9月からは自社の単独運営に切り替え、最短で注文を受けた当日中にネットスーパー専用倉庫から出荷している。西友のネットスーパー事業は「西友ネットスーパー」へと名称を変え、楽天が運営するネットスーパープラットフォーム「楽天全国スーパー」でサービスを続ける。
楽天は西友との合弁会社として楽天西友ネットスーパーを設立し、18年4月よりネットスーパー事業「楽天西友ネットスーパー」を展開。しかし、23年12月には合弁関係を解消し、楽天は倉庫出荷型ネットスーパー事業を、西友は店舗を起点とする実店舗出荷型ネットスーパー事業を、それぞれ単独運営する方針を固めていた。
合弁関係を解消しそれぞれ単独運営に切り替えた理由としては、ECがベースの楽天と実店舗がベースの西友において、方向性にズレが生じたからとみられる。楽天のような倉庫型ネットスーパーであれば物流拠点を軸に大規模な商圏もカバーでき、「楽天市場」や「楽天ふるさと納税」といった楽天経済圏で扱う商品とのシナジーも生み出しやすい。楽天は今後こういった取り組みに注力し、西友は「楽天全国スーパー」を通じて実店舗との連動を強化していく。
「楽天マート」は引き続き神奈川県などにある3カ所の倉庫を拠点とし、首都圏や関西圏の約1,200万世帯を対象にサービスを展開。「西友ネットスーパー」は楽天のポイントプログラムを軸としたプロモーションなどを進め、引き続き協業体制を維持する。
単独運営に切り替え引き続き物流倉庫から出荷(出典:楽天グループ)
ヤフーやヨーカドーはクイックコマースと協業
消費者への配送拠点となる「ダークストア」と呼ばれる倉庫型店舗を通じ、数十分程度の短時間で商品を届ける「クイックコマース」事業者との協業も目立った。
"LINEヤフーは2024年8月、22年1月からグループのアスクルや出前館と共に本格展開していた即配ネットスーパー「Yahoo!マート by ASKUL」のサービスを終了した。典型的なダークストア型コマースで、注⽂を受けた後に出前館の配達員が専⽤倉庫で該当商品を受け取り、⾃転⾞やバイクで配送していた。コロナ禍による在宅時間の増加などにより急速に拡大したが、採算面や運営コストの増加、システム維持などの課題もあり、事業継続が困難と判断したという。"
一方で、タイムパフォーマンスを意識するユーザーの数は増加していることから、新たなサービスとして、同月から出前館が生鮮食品や日用品などを最短30分で届ける「Yahoo!クイックマート」をスタート。コンビニやスーパー、ドラッグストア、薬局など地域加盟店と連携し実店舗から商品を配送することで、従来のダークストア型では難しかった商品やエリアをカバーできるようになった。
サービス開始時は都内3区といった限定的なエリアで展開していたが、効率的なオペレーション体制の構築に取り組み、配達エリアを徐々に拡大。24年11月からは全国43都道府県で利用できるようになった。加盟店舗も増加しており、順調な滑り出しと言えそうだ。
注文を受けてから最短30分で届ける(出典:出前館)
セブン&アイ・ホールディングスとイトーヨーカ堂も24年10月、「イトーヨーカドーネットスーパー」事業から撤退すると発表した。01年にスタートした同事業は通期黒字化を果たすなど好調な時期もあったものの、ピーク後には損失を計上することになり苦戦が続いた。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは10月に行われた25年2月期 第2四半期決算発表において、25年2月に予定するネットスーパー事業の撤退により営業損失を解消したうえで、「店舗起点の配送サービスは再構築して維持する」としていた。
その言葉通り2カ月後の12月には新サービスとして、クイックコマースを手がけるONIGOとの資本業務提携を発表。25年2月から、最短40分で届ける「ONIGO上のイトーヨーカドーネットスーパー」として再始動する。ONIGO が持つクイックコマースのシステムや事業開発力と、イトーヨーカドーの商品調達力およびこれまで培ってきたデリバリーサービスのノウハウを組み合わせることで、サービス品質の向上につなげる。
両社の協業については、以前からグループのヨークマートなどで着手していた経緯がある。新サービスではONIGOが開発するアプリやウェブサイトで注文を受け、全国のイトーヨーカドー83店舗、ヨーク10店舗からONIGOがピッキングして配送する。クイックコマースを手がけるスタートアップ企業との協業により、イトーヨーカドーのラストワンマイル施策が成功するかに注目したい。
ONIGOが開発するアプリやWebサイトから注文する(出典:ONIGO)
イオンは実店舗出荷型と倉庫出荷型で展開
実店舗出荷型と倉庫出荷型という両輪でネットスーパーを展開するのがイオンだ。従来から手がけている実店舗出荷型の「イオンネットスーパー」に加え、2023年7月からは子会社のイオンネクストを通じて倉庫出荷型の「グリーンビーンズ」に乗り出している。
「イオンネットスーパー」は、近隣のイオン店舗でスタッフがピックアップした商品を店から直接配送するサービス。一部地域を除く全国45都府県で展開するが、店舗によって品揃えなどにバラつきが生じることもある。
一方で倉庫出荷型の「グリーンビーンズ」は、最先端の AI やロボティクス機能を導入した専用の物流倉庫を拠点として商品管理を実施する。生鮮品や冷凍食品は、倉庫保管時や配送中も徹底した温度管理を行って鮮度を維持。配送後1週間は葉物野菜などが新鮮な状態を保つように管理され、商品ラベルに記された鮮度保証期限内に傷めば返金保証対象になるようだ。
最低購入金額が700円(税抜)の「イオンネットスーパー」に比べると、「グリーンビーンズ」は4,000円(税抜)とネットスーパーにしてはやや高い。しかし、この金額を維持することで配送コストがかさむ倉庫出荷型のマイナス面をカバーすることにつながり、サービス品質を保つことができる。
24年12月には配送エリア外だった都内4区でサービスを開始し、対象を23区全域へと拡大すると発表。エリアは東京23区と千葉県・神奈川県の1都2県32市区となり、約730万世帯での利用が可能になった。
会費制で配送料無料を導入するサミット
ネットスーパーの配送にサブスクリプションを導入しているのが、サミットの「サミットネットスーパー」だ。実店舗出荷型のサービスとして2022年10月にスタートしたもので、近隣のサミット店舗からスタッフが商品を届ける。
注文のたびに配送料がかかる他のネットスーパーとは異なり、毎月会費を支払うことで何回頼んでも配達料が無料となる仕組みを導入。月会費は990円(税込)で、戸建の場合は敷地内に商品を保管する鍵付きロッカーを設置すれば660円(税込)で済む。ただし、1回の利用金額が1,500円(税抜)未満の場合は、サービス料として110円(税込)を徴収する。
もともと「サミットネットスーパー」は、親会社の住友商事が子会社の住商ネットスーパーを通じて09年10月からサービスを開始。他社が実店舗出荷型ネットスーパーを運営する中、住友商事の資金力をバックに倉庫出荷型として専用物流センターを設けて展開していた。
しかし、物流センターへの初期投資費用や各家庭への配送費用の負担がかさみ、当初予想より受注数も伸び悩んだため、14年10月には撤退を表明した経緯がある。現在展開している「サミットネットスーパー」は実店舗からの出荷であり、大きな初期投資はせずに少しずつ対応店舗を増やしていることから、損失を出さずに近隣世帯のニーズを取り込める可能性がある。
戸建は敷地内に鍵付きロッカーを置くと月会費が割引になる(出典:サミット)
まとめ
このように各社がしのぎを削るネットスーパーだが、実店舗出荷型と倉庫出荷型という違いだけでなく、それぞれ少しずつサービス内容が異なる。自分にとって最も利便性が高いサービスを選ぶ目が肥えた消費者に利用してもらうためには、品ぞろえだけでなく配送対応時間帯や配送便数、配送料、決済方法、置き配などの受取方法、再配達対応、アプリ機能などさまざまな要素への目配りが必要だ。
アマゾンなど大手プラットフォームも競合相手となる中で、顧客の要望にいかに寄り添い、リピーターを確保していくかが成功へのカギとなるだろう。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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