2025.10.22 ECモール
オートロック解錠による「置き配」、配送大手が本腰
物流の「2024年問題」を受け業界を挙げて「置き配」が進む中、これまで難しかったオートロック集合住宅の対応に大手配送企業などが本腰を入れ始めた。物理的な鍵ではなく、配送員が荷物の伝票番号や専用アプリなどのデジタルキーを使って解錠する取り組みが本格化。従来のような「人」認証ではなく、「荷物」認証による仕組みが解決手法として確立しつつある。
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障壁だった不在時のオートロック対応
再配達防止の施策として政府や配送業者が一体となり「置き配」が推奨されてきたが、それを阻む最大のネックとなっていたのがマンションなど集合住宅エントランスに設置されているオートロックシステムだ。住人の許可を得たうえでの解錠が必須であり、不在の場合は共有の宅配ボックスに入れるか、持ち帰るしか方法はなかった。
ただ、共有の宅配ボックスを設置していない集合住宅もあるうえ、コロナ禍でネット通販の利用が増えたことから、設置済みでも全て塞がっている場合も多い。さらに飲料などの重い荷物を部屋まで運ぶ労力を避けるため、宅配ボックスを利用せず再配達を選ぶ居住者も少なくない。こういった背景から、オートロックという障壁をクリアすることは、配送側にとって重要課題だったっと言える。
また2024年10月から、ネット通販の利用者が置き配や宅配ボックスを活用し1回の配送で荷物を受け取った場合、ポイントを付与するサービスを国と配送企業などが連携して展開。「置き配」が消費者にとってメリットになったことも、オートロック解錠システム設置の追い風となった。システム導入には事前にオーナーや管理会社の承認が大前提だが、大手の不動産企業やハウスメーカーでも集合住宅に解錠システムを積極導入する動きが進む。
デジタルキーでの開錠時には配送員の端末画面に鍵マークが表示される(出典:アマゾン)
「置き配」後発の佐川急便もオートロック解錠に踏み込む
佐川急便は2024年12月、住居用インターホンなどを製造するアイホンとITベンチャーのPacPortが22年に共同開発した次世代型宅配システム「Pabbit(パビット)」の試験導入を開始した。「パビット」搭載のインターホン及び端末が設置されたオートロックのマンションやアパートでは、オートロックの解錠が可能となる。
「パビット」は、配送員が荷物の伝票番号またはバーコードを認証キーとしてオートロック機器にかざして解錠する仕組み。荷物に印字されたデータで認証するため、配達中の荷物を持っている配達員のみが解錠でき、居住者が不在でも各部屋の玄関先まで荷物を届けられる。荷物情報は1回の配送でしかロック解除に使用できないため、セキュリティ面でも安全性が担保されている。
佐川急便の「置き配」サービスは他の配送企業と比べ遅れており、24年8月までは自社と個別契約を結んでいる一部荷主の荷物にしか対応していなかった。しかし、業界全体の「置き配気運」を受け、9月からは自社Webサービスのスマートクラブ会員をはじめ、LINE公式アカウントを通じて「置き配」を選択できるように改善。さらにオートロック解錠による「置き配」にまで踏み込むことで、配送の効率化とユーザーの利便性向上につなげる。
製造元のアイホンも「パビット」の普及に向けて大手配送業者とのシステム連携を推進しており、ネットスーパーなどにも順次拡大していく予定だ。伝票番号がベースのため、どの配送業者もたやすく導入できるという。
「パビット」は初めからエントランスインターホンに搭載されたタイプと、既存のエントランスインターホンに外付けで設置するタイプの2種類。外付けタイプはインターネット回線工事などが不要で、機器の設置工事のみで利用できる。
佐川急便が試験導入したオートロック解錠の仕組み(出典:アイホン)
協業パートナー増やし全国展開するアマゾン
アマゾンもすでに2021年から、オートロック解錠システム「Amazon Key(アマゾン・キー)・旧名称Key for Business」のサービスを日本で始めている。集合住宅の管理会社などから事前許諾を受け、マンションのドアまたは集合住宅玄関の制御盤に専用機器を設置する仕組みだ。
委託先の配送員が荷物ごとにオートロック解錠の認証を受けた専用配送アプリを使って解錠し、商品を各戸の玄関前などへ配達する。解錠できるのは荷物を持っている時だけで、配達完了後はロック解除権限を失う。配送員が持つ端末の画面にはロック解錠のマークが表示されるが、暗証番号など重要な情報は表示されない。
アマゾンは「アマゾン・キー」の導入後、大東建託パートナーズや綜合警備保(ALSOK)などの認定パートナーと協力して全国20以上の都道府県へとサービスを拡大。23年3月には賃貸マンンション管理を手がける三井不動産レジデンシャルリースとの協業を発表し、同社が管理するマンションで「アマゾン・キー」による置き配サービスに着手した。
また、24年5月には、前述のアイホンが展開するオートロック解錠システム「パビット」において「アマゾン・キー」の利用を可能とした。アマゾンの委託配送員が「パビット」と連携したオートロック機器が設置されたマンションで配送アプリを操作すると、配送荷物を持っている時に限り「パビット」のクラウドへ解錠情報が伝達され、オートロックを解錠できる。
「パビット」導入マンションでは「アマゾン・キー」の利用も可能に(出典:アイホン)
ヤマトはプラットフォーム構築しデジタルキー提供企業と連携
複数のデジタルキーを同一のオペレーションで一括管理できる「マルチデジタルキープラットフォーム」を通じ、スマートフォンなどで施錠・解錠を行う仕組みを開発したのはヤマト運輸だ。2022年3月から、EC利用者向けの配送サービス「EAZY(イージー)」を扱う配送員の端末にオートロック付きマンションのエントランスをデジタルキーで解錠する機能を追加し、事前指定したユーザーへの置き配を開始した。
「マルチデジタルキープラットフォーム」は複数の異なるデジタルキーを1つのシステム上で同時に管理することが可能で、開始時にはデジタルキーを提供するビットキーやライナフなど6社と連携契約を締結。オートロック解錠用デバイスの設置情報と、EC注文時の配達先の住所情報をマッチングし、連携先のデジタルキー企業にオートロック解錠申請を行う。
解錠は1つの荷物につき1回のみで、配送情報ごとにオートロック解錠に必要なワンタイムパスワードを発行。デジタルキー企業は「マルチデジタルキープラットフォーム」とAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携するだけで導入が可能だ。
20年6月に始めたEC利用に特化したヤマト運輸の「イージー」は、置き配指定が可能な配送サービス。デジタルキーによる置き配を希望する場合は「イージー」の置き配サービスを利用し、個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」にログインするか、メールやLINEの配送通知に表示される「オートロック解錠に関する指定」をクリックする。
複数の異なるデジタルキーを1つのシステム上で同時に管理し解錠(出典:ヤマト運輸)
まとめ
“解錠”という障壁が立ちはだかっていたオートロック集合住宅だが、「2024年問題」に加え、「置き配」への入居者ニーズが急速に高まっていることから、業界を挙げて課題解決への取り組みが進む。
「置き配」の認知度や導入事例が増すにつれ、これまでネックだったオーナーや管理会社の事前受託もスムーズになっていくだろう。さらに新築マンションの場合は顧客満足度向上に向け、エントランスのインターホン機器に解錠システムを事前搭載するケースも増えていくとみられる。
さらに広めるためには、これらを開発・活用する各社がシステムに汎用性を持たせるなど連携を強めていくことが重要だ。解錠による「置き配」のスタンダード化を目指し、配送業界を中心とした関連企業が一体となって進めることを期待したい。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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