2025.09.01 行政情報
「しばりなし」定期購入の申込でアップセル “ちょっと待った”は違法の恐れ(前編)
「初回で解約できる」「回数しばりなし」と目立つように表示された広告を見て申し込みを完了しようとする消費者に対し、「もっと得する」と呼びかけて複数回の購入が条件となる「しばりのある」定期購入コースへ誘導――最近、インターネット通販で見られる新たな手法だ。このアップセルが目的の“ちょっと待った”の手口は、消費者を騙すダークパターンの1つ。消費者トラブルが多発していることから、行政側は取り締まりを強めている。
▽関連記事
広告で「しばりなし」を強調
「しばりなし」の定期購入コースの場合、初回購入のみで取引をやめることも可能。このため、「一度試してみようかな」と気軽に申し込む消費者も多い。試してみて気に入れば毎月商品が届き、不要ならばいつでも取引をやめることができる。
そうした消費者心理を突いて、広告で「しばりなし」を強調しながら、わかりにくい表示によって、複数回の購入が条件となる「しばりのある」コースへ誘導する手法が横行している。
「しばりなし」のコースを申し込もうとする消費者に「特典」や「お得なプラン」の利用を勧めて、消費者が気づかないまま、「しばりのある」コースを申し込ませるという特徴がある。事業者側は法の盲点を突いたつもりかもしれないが、すでに行政による取り締まりが始まっている。行政処分を受けた手口を紹介する。
美容液・育毛剤のネット通販の事例
東京都は2024年11月、ネット通販で美容液や育毛剤を販売する3社に対し、特定商取引法違反により、3カ月間の業務停止命令を出した。3社の代表は同一人物で、3社が一体となって販売していた。A社が商品の仕入れ、売上管理、広告・物流業務などを担い、B社が美容液の通販など、C社が育毛剤の通販などを行っていた。
消費者がスマホでニュースサイトやSNSを見ていると、美容液や育毛剤のバナー広告が出現。バナー広告を選ぶと、B社の美容液やC社の育毛剤の販売サイト(記事ランディングページ(LP))へ遷移する。ポップアップ広告の申し込み画面からも注文できるが、記事LPをスクロール中に出てくるボタンを押すと、別の販売サイト(商品LP)へ遷移する。
商品LPでは、記事LPとは違う内容の広告が表示される。スクロール途中に出現するボタンやポップアップ広告を通じて遷移する申し込み画面、または最後に現われる申し込み画面から注文できる。申し込み画面に従って入力していくと最終確認画面となり、「しばりなし」の定期購入コースの申し込みができる。
申し込み完了後に「限定特典」の表示
問題はここからだ。申し込み完了後に、これまでの販売サイトとは別の「■■ページ」という販売サイトが現れる。「■■ページ」には、「お申し込みいただき、ありがとうございました。商品の到着まで、楽しみにお待ちください」の表示がある。目立つように「まだ閉じないで!特典があります!」と表示し、「本ページ限定特典」「〇〇〇を2本プレゼント!」「いつまでもお得が続く 特別プランをご用意しました」といった広告が展開される。
実際にはこの「■■ページ」は、最低7回の購入が条件の「しばりのある」定期購入コースの案内だった。「しばりなし」のコースを注文した消費者のみに表示される。
消費者はすでに申し込みが完了しており、“特典”が得られると思い、「お得プランに変更する」の記載があるボタンを押してしまう。ところが、最低7回の購入が必要となる「しばりのある」コースを申し込むことになる。
広告表示義務違反と認定
都は、同社が記事LPなどで「しばりなし」の表現を強調していたが、「■■ページ」では「しばりなし」と対比しやすい「しばりのある」という表現を用いなかったと指摘。その代わりに、小さな文字で「最低7回(総額〇〇〇〇円/税込)のご継続をお約束いただく、ご解約まで継続する期限の定めのない契約です」などと表示し、消費者を誤認させた点を問題視した。
「しばりのある」コースへの変更は定期購入の解約にかかわることから、特商法が求める「申し込みの撤回または解除に関する事項」の表示がなかったと判断。特商法(第11条5号)の広告表示義務に違反したと認定した。
取材に対し、都は「記事LPなどで『しばりなし』を強調したので、(■■ページでも)『しばりのある』という視認性の高い表示が必要となるが、あえて『しばりのある』という表現を用いなかったことも含めて、見やすいように書いていなかった」(生活文化スポーツ局消費生活部取引指導課)と話している。
特商法(第11条)は、販売価格や支払方法などのほか、申し込みの撤回・解除に関する事項を表示しなければならないと規定。さらに、省令で「申し込みの撤回または解除に関する事項については、顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法、その他顧客にとって容易に認識することができるよう表示すること」と定めている。
いつでも解約可能なコースを申し込もうとする消費者に“ちょっと待った”の声をかけて、明瞭とは言えない表示によって「しばりのある」コースへ誘導する手口は、法違反の恐れがあることを明確にした事例となった。
(つづく)
(木村 祐作)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。
資料DLランキング
-
1
【楽天市場】RPP広告チェックリスト2025
-
2
AIタッガー for Yahoo!|検索エンジンを味方に、見つかる力を最大化
-
3
Amazonビッグセールで 売上を8倍までのばした 広告運用術
-
4
【Amazon】運用ガイド:サムネイル作成時のポイント解説
-
5
AIタッガー for 楽天市場|検索エンジンを味方に、見つかる力を最大化
ニュースランキング
-
1
エステサロンの口コミでステマの疑い、LAVA Internationalの確約計画を認定
-
2
消費者庁、来年度予算案の概算要求 デジタル取引の監視・執行を強化
-
3
インターネット広告174事業者とSNS広告122事業者を指導…東京都
-
4
2024年度通販・EC市場規模 前年比7.3%増の14兆5500億円…JADMAの調査
-
5
「楽天全国スーパー」利用登録者100万人突破記念キャンペーンを開催