2025.12.01 通販会社
活気が戻った大手家電量販店のEC、その要因や戦略は?
コロナ禍の収束に伴いやや足踏み状態だった大手家電量販店のECだが、ここに来て活気が戻ってきた。決算発表などからも、各社ともECに力を入れていることがわかる。家電市場のEC化率は拡大しており、背景には送料無料化や当日配送などのサービス競争もあるようだ。各社の決算業績も参考にしながら、大手家電量販店のEC戦略や好調の要因などを探ってみたい。
43%と高い家電販売分野のEC化率
2023年前後のEC業界はそれまでのコロナ禍特需が終わり踊り場を迎えていたが、24年以降は次第に勢いが戻ってきた。経済産業省が25年8月に発表した「令和6年度 電子商取引実態調査報告書」によれば、物販系分野におけるBtoC-EC市場規模は前年比3.70%増の15兆2,194億円となった。EC化率も9.78%と前年より0.40ポイント増加した。
「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」など家電分野におけるBtoC-ECの市場規模は2兆 7,443億円となり、前年比で2.26%増加。同分野のEC化率は43.0%で、「書籍・映像・音楽ソフト」分野に次いで高い。
物販系分野のBtoC-EC市場におけるEC化率は9.78%まで拡大(出典:経済産業省)
家電分野のEC化率が高いのは、型番が決まっているので商品価格をネットで比較しやすく、高額商品も多いため慎重に検索・選択したいというニーズがあるからだ。在庫確認もできるうえ、家電量販店のサイトから注文すれば送料無料で届くというメリットもある。
では、家電量販店の中でEC売上高がトップクラスの3社の業績や、勝因となる取り組みを見ていこう。
ビックカメラは送料無料化が奏功、EC伸び率は前期比9.0%増
ビックカメラが10月に発表した2025年8月期単体決算は増収に加え、利益面が大幅に伸びた。EC伸び率は前期比9.0%増で、EC売上高は589億円と前期より63億円増加。26年8月期は648億円を見込む。
EC伸張の要因として挙げられるのは、24年9月から実施している送料の基本無料化だ。従来の無料化を20年10月から見直し2,000円未満の買い物は有料化していたが、これを撤廃。買い物金額や個数を問わず無料化し、競合のヨドバシカメラに追随する形となった。
当期はこの無料化施策が奏功し、新規顧客数が前期に比べて54%、顧客数が40%増加。顧客全体の平均購入回数も前期比プラス0.23回となった。今後も全品送料無料を継続し、顧客囲い込みやリピート購入につなげたいという。
家電業界で競争化しているスピード配送についても、当日配送を東京23区全域、都下の一部まで拡大した。東京23区内は14時までに注文すればその日中に、都下や神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪などの一部エリアでも11時までの注文で当日配送に対応する。
25年8月にはECサイト刷新にも着手しており、今後は定期購入スキームを導入しリピート顧客の拡充を目指す。商品群も大幅に増やし、27年8月期には23年8月期時点での332万SKUの約2倍にあたる品揃えを計画している。
同社はこれまで、ECと店舗を融合させるOMO(Online Merges with Offline)施策にも注力してきた。ECサイトで指定した商品を希望する店舗で取り置きできる「ネットで取り置きサービス」では、最短60分で商品を受け取ることが可能だ。また、公式アプリ「アプリでタッチ」を店舗に陳列された商品の電子棚札にタッチすれば、商品情報や購入者レビューなどをチェックできる。こういったOMOの取り組みも、EC伸張の要因とみられる。
単体EC売上高は上方修正が続く(出典:ビックカメラ)
ヤマダ電機の中間期もUI刷新やポイント施策でEC好調
ヤマダホールディングスが2025年11月に発表した26年3月期中間連結決算は、いずれも小幅の増収減益となった。
テレビショッピングを含むEC事業は好調で、EC売上高は前年同期比7.6%増の480億円と増加。UI(ユーザーインターフェース)の刷新やポイント連携施策などが奏功し、特に第2Qでは自社サイトの売上高が同30%増と大きく伸張した。AIを活用した検索機能の導入によるユーザビリティ向上や、商品ラインナップの拡充などが奏功したとみられる。
OMO施策も強化しており、LABI池袋本店の常設スタジオでは、自社の専門スタッフがライブ配信する商品をそのままECで購入できるライブコマースを展開。本店屋外ビジョンでも同時に放映しながら、「リアル店舗網×デジタル発信力」による販売機会の最大化につなげている。
ただ、送料は完全無料化しておらず全国一律550円(税込)で、1回の注文合計金額が3,300円(同)以上の場合は無料となる。他社に追随せず、多様な選択肢を提供しながら必要な費用は負担してもらうというスタンスで、当面は送料無料の線引きを継続していく考えという。
ECと店舗の連携により、15時までに注文すれば当日配送も実施。ECサイトの商品に「即日配送」のアイコンが付いていれば、「プレミアム配送便」を選ぶと東京都や愛知県などの指定エリアを対象に90分以内に商品が届く。また「ヤマダ高速便」を選べば、当日中に届けられる。いずれも近隣のヤマダデンキ店舗スタッフが電話で確認後、直接商品を配送するシステムだ。配送料は通常のECと同料金となる。。
さらに、あらかじめ「My店舗」を登録しておくことで、ECサイトで注文した商品を最短30分で受け取れる「お店de受取」も導入している。対象商品には「おみせde受取」アイコンが表示されていて、商品が用意できると店舗からメールが届く。
下期のEC戦略としては、3,000万人のアプリ会員とポイント施策を連携して自社サイトへと誘導し、売上拡大を目指す。26年3月期のEC売上高は、前期比14.8%増の1,170億円を見込む。
LABI池袋本店1階の「ヤマダライブスタジオ」と屋外大型ビジョン(出典:ヤマダ電機)
最短2時間半の無料スピード配送で訴求するヨドバシカメラ
ヨドバシカメラの2026年3月期中間決算の業績については、非上場企業であるため不明だ。ただ、業界紙(日本流通産業新聞)の推定値によれば、24年度(25年3月期)のEC事業売上高は家電業界トップの2,300億円規模となっている。そのため、26年中間期は1,000億円を超えている可能性が高い。
業界団体が実施するEC・通信販売企業の顧客満足度調査では毎年トップとなる支持率を誇るが、その背景にはやはり送料無料化や迅速配送という高品質サービスがあるようだ。
配送料は一部離島を除き、どんなに小さく低価格の商品でも1点から無料。顧客満足度向上を目指し、98年のECサイト開始時から「全品無料」のサービスを続けている。同サービス専用に東京都23区内全域に配送サービス拠点を開設し、約300台の配達サービス車両でスタートした。日常の気軽な利用を促すことで個客接点を維持するという意図だが、利便性が高いこの施策がユーザーの強い支持につながっているとみられる。
配送についても、16年から即日最短2時間半のスピードを誇る「エクストリーム便」を展開する。東京都23区全域や都下の一部が対象で、やはり1品でも配送料は無料。配送オプションとして選択でき、ヨドバシカメラのスタッフが配送を担う。
他2社と同様に、OMO施策である「ネットで注文 店舗で受け取りサービス」も実施している。ECサイトで購入後に希望店舗を選べば、商品の準備ができ次第メールが届く。
場合により自分の都合に合う店舗を指定でき、支払いも受け取り時に店舗で行うシステムのため、ユーザーにとって使い勝手がよいのは明白だ。現在改装工事中の池袋西武百貨店にヨドバシカメラ新店舗がオープンすれば、都内最大規模のターミナル駅直結という利便性から同サービス利用者は大幅に増加するだろう。
EC事業の新たな取り組みとしては、25年11月に「TikTok Shop」に公式「ヨドバシストア」を開設。同ストアでECを手がけるさまざまな取引先とパートナーシップを結び、ヨドバシカメラのフルフィルメントサービスを提供する。
「TikTok Shop」では家電、コスメティックス、日用品など幅広い商品の販売を開始。自前のライブスタジオを開設し、商品のLIVEコマースや「TikTok Shop」向けショート動画の自社生産体制を構築してメーカー支援につなげる。
「TikTok Shop」にオフィシャルサイトをオープン(出典:ヨドバシカメラ)
まとめ
こうして見ていくと、ユーザーに訴求するための重要ポイントとしては、送料無料や迅速配送、OMO施策などが挙がる。さらに、こういった表側のユーザーサービスの裏側に、配送網や物流倉庫といった強固なバックヤード整備が不可欠なのは言うまでもない。
昨今の家電販売業界では中堅のEC専門企業が力を付けているのに加え、ニトリのような大手異業種も参入している。これまで以上に競争は激化するとみられ、大手家電販量販店といえども楽観はしていられない。時短や消エネといった消費者志向に応えたり、AIを効率的に活用したりなど、さらに一歩進んだ多様な取り組みが求められるだろう。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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