消費者庁は2020年12月25日、景品表示法における二重価格表示の一種である「将来価格」についての執行方針を明らかにした。執行指針では、将来価格を用いてセールやキャンペーンで二重価格表示を行った場合に、後の販売計画に関する資料やデータなどがないと有利誤認表示とみなされるおそれがあると記載。また、比較対象とする通常価格で2週間以上継続して販売しない場合、販売実績が「ごく短期間」とみなされ有利誤認表示にあたる可能性があると言及している。
将来価格=販売実績ができる予定の価格
そもそも 「将来価格」とは、過去に販売実績のある販売価格ではないが、将来的に販売実績ができる見込みの価格のことをいう。例えば「期間限定価格」などとして高い割引率の販売価格を表示しても、「明日以降」「期間終了後」などとして表示した通常販売価格(将来価格)での販売実績が将来に一定期間あれば、過去に販売実績のある価格でなくとも必ずしもすぐさま有利誤認にあたる二重価格表示とはならないというもの。「将来価格」は18年春にはじめて景表法の措置命令で登場した用語。
▽関連記事
「2週間以上継続」が販売実績の目安
今回公表された執行指針では、「将来価格」を用いた二重価格表示は「(将来価格で)販売することが確かな場合以外、基本的に行うべきではない」としながら、将来価格を用いた二重価格表示が有利誤認とみなされるケースなどについて具体例も交えながら明らかにした。
▼参考
将来価格を用いた二重価格表示が有利誤認表示とみなされるおそれがあるのは「(将来価格で販売する)確実な予定を有していない場合」とした。そのうえで、将来価格表示が有利誤認にあたらないのは・・・
(1)一般的な販売活動の中で「将来価格」で販売されること
(2)合理的かつ確実に実施される販売計画を、セール期間を通じて有していること
であると明示。将来価格での販売実績が「一般的な販売活動の中での販売」にあたる目安についても言及。執行指針では「2週間以上継続」した場合は、有利誤認表示として取り扱う「将来の販売価格で販売したのがごく短期間であった場合」とは考えないとしている。
なお、販売実績については、「将来価格」の根拠を形式的に整える手段、つまり形式的に「アリバイ作り」をしても販売実績には該当しないと注意している。
加えて、「一般的な販売場所とはいえない場所のみに商品を陳列する予定であるなど販売形態を一般的とはいえないものとする場合」「(将来価格が)購入者がほとんど存在しないと考えられるほど高額であるなど一般的な価格ではない場合」も一般的な販売活動で販売された、とは言えないとしている。
ちなみにパブリックコメントでは、「販売形態を一般的とは言えないものとする場合とはなにか」という質問もでた。これについて消費者庁はECでの考え方として「セール価格で販売された商品が、セール期間経過後においても当該サイトで検索等を行うことにより、他の商品と同様に容易に購入可能」であれば一般的な販売形態にあたるだろうとの見解を示している。
根拠たりえる「販売計画」とは?
「合理的かつ確実に実施される販売計画」とはどんなものであるか明示している。執行指針には、「例えば下記のような資料やデータ」として以下の趣旨の内容が記載されている。
(1)将来価格を用いた二重価格表示を行うとき、自社製品等の場合は製造計画(製造数量、製造原価等)や販売に要する費用を示すもの。仕入れ商品である場合は仕入れ先などとの契約内容(発注数量、仕入価格、納期等)や販売に要する費用を示すもの。どちらも事業者が将来価格表示した商品について、その販売価格で商品を販売できるか否かを判断できるもの。
(2)将来価格を用いた二重価格表示を行う対象商品と同一または類似の商品の売上げを示す資料やデータであって、事業者が将来価格で対象商品等を販売した場合の売上げの推測ができるもの。
セール期間が未確定もアウト?
注記として、下記のような場合は 「合理的かつ確実に実施される販売計画」とは認められないとも記載している。
×:販売計画の内容が、それを実行しても計画のとおり比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができる見込みが客観的に乏しいもの
×:将来価格で販売するか否か自体について、二重価格表示の開始後に事業者が改めて判断するものになっていたり、発生するか否かが不確実な事実にかからしめる場合
×:そもそも「将来価格」を用いた二重価格表示を行うセール期間が確定しない場合
最後のNG例については、「合理的かつ確実に実施される販売計画を有している事業者であれば、当然これを確定」しているはずだとし、「例えば『現在セール中にて300円、セール終了後は500円』といった、具体的なセールの期間や期限を示さないで将来価格を用いて二重価格表示を行っている場合には、そのこと自体により、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが強く疑われる」からだとしている。
なお、「特に個人事業主等の小規模事業者やその他の中小企業者等」に限っては「必ずしも表示開始時点前に、これらの資料やデータを取りまとめて文書として作成・保存しておくことまでが求められるものではない」ともしている。ただし、その場合では「販売計画を作成する個々の従業員(従業員を雇用していない代表者一人の事業者にあっては当該代表者)がこれらの資料やデータの内容を認識していることで足りることもある」と記載している。
「特段の事情」ある場合は例外も
「合理的かつ確実に実施される販売計画」があっていても、実際に販売が行われなければ優良誤認表示として取り扱われることにはなる。ただ、指針では「特段の事情」があった場合にはこれに限らない、ともしている。この「特段の事情」と認められるのは「販売できなくなったことが事業者の責に帰することができない不可抗力を原因とする場合」。
具体的には「地震、台風、水害等の天変地異、感染症の流行等によって、当該事業者の店舗が損壊したり、流通網が寸断されたりするなど」の場合としている。さらにこれを踏まえてOK事例とNG事例を例示した。以下に一部を抜粋する。
仕入れ先業者のミスや需要ひっ迫はOK
【特段の事情で販売できなくなったと認められる例】
〇:「除菌ハンドソープ セール価格700円 来月1日から1000円」と表示したが、表示した後に新たな感染症が発生し、その流行が著しく拡大したため、表示開始時までには予期できなかった需要の急増が生じ、除菌ハンドソープの販売が増加して在庫がなくなり、仕入先の業者から納入してもらうこともできなくなったことにより、セール期間経過後に除菌ハンドソープを販売できないとき。
〇:「マフラー 来月1日から15000円 特別価格7980円」と表示し、セール期間経過後に販売する分の商品について仕入先業者に発注をしていたが、専ら仕入先業者のミスにより、E通信販売業者にマフラーを納入できなかったことにより、セール期間経過後にマフラーを販売できないとき。
〇:「地元産フルーツを使ったアイスクリーム 新発売のため特別価格200円にて提供 来月から300円」と表示したが、表示した後に芸能人が当該アイスクリームを自らが出演するテレビ番組で絶賛したために、表示開始時までには予期できなかった需要の急増が生じ、原材料である地元産フルーツの供給が追い付かなくなったことにより、セール期間経過後に当該アイスクリームを製造販売できないとき。
競合対抗でセール延長はNG?
【特段の事情で販売できなくなったとは認められない例】
×:「スーツ 来週月曜日から30000円 セール特売価格20000円」と表示したが、表示後にスーツの売上げが伸びないため、売上目標に達するまでセール期間を延長したとき。
×:「ドラム式洗濯機 来週木曜日までの特別セール179000円 来週金曜日以降は199000円」と表示していたが、セール開始後他社が値下げしてきたため対抗上セールを継続したとき。
×:「エアコン ただ今限りのセール特価38000円 8月以降48000円」との表示を5月から開始していたところ、セール開始後の気温上昇による一般的な需要増の結果、売行きが増加して在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかったため、セール期間経過後の8月以降にエアコンを販売しなかったとき。
▼参考
パブコメ結果も公表
パブリックコメントの結果についても公表されている。パブコメ内容の一部を紹介すると「販売計画の有無で有利誤認表示への該当性を決することは誤りである」とする旨の意見なども寄せられているが、執行指針に基づく解説の上、「御指摘には同意いたしかねます」と一蹴している。
▼参考:パブコメ結果
この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。