通販市場には現在、越境ECを開始するためのさまざまなサービスが存在しているが、欧米やオセアニア、アジア市場に向けて越境ECを展開したいのであれば、国内から海外のAmazonに商品を出品できるAmazon出品サービス「Amazon global seling」(アマゾン グローバル セリング)という便利なサービスを使わない手はない。中国市場だけでなく、欧米やその他のアジアの国々からも日本製品のニーズは高く、集客力のあるAmazonで海外展開するのは有効な手段だ。しかし、このAmazonの海外販売サービスはなぜかあまり普及していない。Amazonでの海外出品にはどんな問題があるのか? 真相に迫った。
Amazonで世界180カ国への越境ECが可能に
まず、Amazonグローバルセリングの概容について解説する。Amazonで海外販売できる世界のマーケットプレイスは、北米だと米国・カナダ・メキシコ、ヨーロッパはイギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペイン、アジアはインド・中国・日本、オセアニアではオーストラリアの合計12カ所。これらのマーケットプレイスから180カ国の人が購入できるようになっている。
各マーケットプレイスでアカウントの登録し、出品作業を済ませれば、越境ECが開始できる。商品の配送は、フルフィルメント by Amazon(FBA)を利用する場合、マーケットプレイスの倉庫にまとめて商品を配送すれば、Amazon側が海外の購入者に直接発送する。FBAを利用しない場合は、国内から国際郵便のEMSなどで配送することになる。
米国Amazon.comで販売する場合、グローバルセリングの出店料は、月額の登録料が39.99ドルで、注文成約時に販売手数料がカテゴリーごとに6%~20%かかる。アカウント登録に必要なのは、出品者情報、銀行口座・クレジットカード情報の登録、Tax関連情報、出品者の認証に必要な情報など。登録料や運営費も高いわけではなく、登録作業もそれほど難しいそうでないので、一見すると簡単に越境ECが開始できそうな感じではある。
Amazon側のルール変更を把握するのは困難
しかし、日本語のマニュアルに則って実際に登録作業を進めていくと、わからない部分が出てくることが多いという。日本語によるヘルプはあるのだが、そこで解決しないと英語での対応になるのだそうだ。Amazonグローバルセリングの出品代行を手がける(株)コンパスポイントの岡田昇社長は、「(Amazonグローバルセリングは)日本語でのサポートもあるのですが、サポート範囲は狭く、少し深い話になると対応できない。質問はたらい回しになることが多く、結局、最終的な返事は英語になるため、行き詰まって弊社に相談する会社も増えています」と話す。岡田氏は、Amazonでの海外販売について、下記の問題点を指摘している。
- Amazonグローバルセリングのルールが分かりにくい上に、ルールが日々変化している。海外展開の担当者が最新の情報やシステムをキャッチアップするのは難しい。
- 日本企業が海外のAmazonマーケットプレイスに出店する場合、Amazonのルールだけでなく、各国のルールや法律についても把握して対応する必要があるが、Amazonでは明確な回答が用意されていない場合が多い。ルールや法律の部分がグレーなままで、個人事業主などが商品を販売しているケースもあるが、コンプライアンスの高い企業が法律に則って正攻法で海外販売をするのは難しい。
Amazonの海外出品マニュアル(日本語)
世界からのニーズが高い日本の商品
また、以前はアマゾンジャパン合同会社の社内に海外販売専用の営業窓口があったのだが、現在は専門部署がなく、カスタマーサポートを頼りに自力で出店作業を進めるしかない。こうした問題があることから、大手から中小まで、Amazonでの販売で行き詰まった企業から、同社への問い合わせが相次いでいる。
岡田氏は大手商社を経て2013年に米国で国内商品を北米や欧州向けに販売する会社を立ち上げた。その後、15年5月にコンパスポイントを設立し、北米や欧州のAmazon販売代行を開始した。国内だけでなく、海外のECサイトの運営代行を経験してきた岡田氏は、中国と同様に、欧米での日本製品のニーズの高さを実感している。値段が高くても、品質の良さを求めるユーザーは、欧米にも多いのだ。
Amazonで転売される日本の商品も
ただ、ニーズがあるのに、海外に目を向けない企業が多いことから、別の問題も起きている。岡田氏は「日本の商品には非常に高いポテンシャルを秘めたものが多く、海外のユーザーも日本の商品を求めています。しかし、各国のAmazonでは、個人のセラーが無許可で日本の商品を転売しているケースがあります。市場には作り手の本意ではない価格での転売や、粗悪な偽物も多く、『本物』が『適正価格』で海外ユーザーに届きづらい環境にあります。そのため、少しでも多くの日本企業がAmazonグローバルセリングで海外に進出すれば、『本物』をユーザーの手に『適正価格』で届けることが可能になります。その結果、企業とユーザーの関係性が正常で有益なものになり、企業のビジネスの可能性も広がります」と語った。
岡田氏によると、海外のAmazonでは、現地規格を無視した商品や、商標権や販売権を無視した商品、極端に高値・安値で販売される商品も存在するという。こうした商品の流通は、メーカーやブランドにとって大きな機会損失を生み出しているだけでなく、ブランドイメージも毀損されていることになる。
世界のEC市場は転売の無法地帯
転売問題は国内にもあり、ECモールやフリマアプリで、商品が転売されているケースは多い。国内は企業の目が届きやすいため、転売するセラーに警告を出すことができるが、海外では日本企業の目が届かず、海外ユーザーに人気が高い日本の商品が高値で転売され、無法地帯になっているのだ。
岡田氏はこうした問題に対応するため、(独)中小企業基盤整理機構のEC・IT活用支援パートナーや開拓支援アドバイザーなどを担当し、専門家アドバイザーとしての活動を通じて日本企業の海外展開を支援している。
また、会社としてもAmazonグローバルセリングの出店やEC全般の業務のサポート、コンサルティングなどを行っている。ECに関する業務を一括して請け負うことも可能で、Amazonアカウントの開設、翻訳、商品画像・動画撮影、商品登録、国際配送、多言語カスタマーサポート、国際送金、広告を含むAmazon内の集客、税務対応など、海外展開で必要となるあらゆる業務をサポートしている。
出品サポートは、米国・カナダ・メキシコ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・インド・中国・日本・オーストラリアの12カ国に対応している。
(株)コンパスポイントの岡田昇社長
Amazonでの海外展開を一括サポート
同社がサポートした大手アパレルメーカーの事例では、米Amazonのアカウント開設から、商品登録、ブランド登録、Amazonの倉庫への納品データの作成と国際配送などを代行。販売開始後は、カスタマーサポート、在庫管理、価格調整、SEO対策も含めた商品ページの改修、違反セラーの摘発、広告運用など、トータル的なサポートを実施した。その結果、販売開始から半年で徐々に売上が上がりはじめ、1年程度で売上目標を大幅に上回ることに成功した。
その他、大手ベビーグッズメーカー、玩具卸会社、アパレルメーカー、大手食品メーカー、大手スマートホングッズメーカー、大手育毛剤メーカーなど、Amazonを利用した海外進出支援で多数の実績を持つ。このうちの数社では、全世界のAmazon販売をサポートした事例もある。
国内での多店舗展開を世界市場へ
国内市場では、複数のECモールに出店し、多店舗展開をするEC事業者が増えているが、越境ECに関しては、日本の商品は世界からのニーズが高いのにもかかわらず、中国のECモールに出店することにしか目を向けていない通販・EC事業者も多い。日本の企業が世界のEC市場に目を向けていない間に、海外市場では日本の商品が転売され、市場が荒らされるという状況に陥っている。
もし、自社製品が海外のECサイトで転売されているとわかったら、それはその商品は海外でも売れるという根拠の1つにもなる。Amazonを活用した海外出品は、英語対応を含めた不安要素が多い。こうした不安は同社のような経験豊富でトータル的なサポートができる会社とタッグを組むことで、払拭されるだろう。越境ECで中国市場だけにこだわるのは間違いだ。世界のユーザーが、日本の製品を待っている。
(山本 剛資)
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