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2025.12.17 通販支援

国交省が運送約款を改正、「置き配」も標準化へ 「再配達有料化」は先送り

国土交通省はこのほどラストマイル配送の効率化に向け、「置き配」についても標準化を進める方針を公表した。原則だった対面受け取りのルールを見直して運送約款を改正するほか、盗難などトラブル防止のためのガイドラインを設ける。注目されていた「再配達の有料化」については特に触れておらず、今後の検討課題として先送りしたとみられる。


物流効率化へのラストマイル配送対策として検討


国土交通省は2025年11月、6月から5回にわたり開催していた「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」の提言をとりまとめて公表した。年々増えている宅配便取扱数は、2024年度に約50億個と19年度と比べ約1.2倍に増加。政府が推進する「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、再配達率を既存の 12%から6%へ半減させるとの目標に向けて議論を重ねていた。


政府はこれまでも「多様な受取方法の更なる普及・浸透」を掲げ、1回受け取りの消費者にポイントを付与する再配達削減ポイントキャンペーンなどを展開してきた。付与条件の複雑さや付与率の低さなどから盛り上がったとは言い難いものの、提言では引き続きこうしたサービスなどを通じて多様な受取方法を活用していくべきとしている。


ラストマイル配送対策として、コンビニや駅・公共施設のコインロッカーといった自宅以外での荷物受け取りをはじめ、共同配送やドローン配送、自動配送ロボットの活用など多岐にわたる課題についても意見を交換した。ただ、EC業界や消費者が特に関心を持っていたのは共同住宅や戸建て住宅における「置き配」のため、今回はその提言内容にフォーカスしてみたい。


4月には「再配達削減PR月間」として置き配などを消費者に呼びかけた(出典:国土交通省)


共同住宅・戸建て住宅の「置き配」における4つの柱


検討会では、再配達削減に向けた「置き配」の手法や賛否について検討が重ねられた。またその一環として、共同住宅や戸建て住宅における宅配ボックス設置促進への議論が交わされた。


共同住宅や戸建て住宅における「置き配」の柱は以下の通りとなる。


1 「標準宅配便運送約款」の改正


宅配事業者が「置き配」をしやすいように、運送契約のひな形として宅配便の基本ルールを定めた「標準宅配便運送約款」に「置き配」を追記し、非対面受け取り方法も標準化する。現在の「標準宅配便運送約款」には荷物の引き渡しについて「置き配」規定がなく、「引き渡しが可能なのは本人か同居人、集合住宅であれば管理人など」と記載されている。そのため宅配ボックスへの配達や自宅玄関前等の指定場所への「置き配」を行うには、現状では個別に国土交通大臣の認可を受ける必要がある。


ただ、ヤマト運輸だけは、「荷受人が指定した『荷物の置き場所として社会通念に反しないと認められる場所』に置く方法を引き渡しとみなす」と「置き配」に触れ、宅配ボックス経由での引き渡し方法についても明記している。提言ではこれを参考に、宅配ボックスや自宅玄関前といった指定場所での受取方法を選べるように「標準宅配便運送約款」の改正を検討する。


すでにヤマト運輸以外の配送業者も事実上「置き配」を手がけているため、約款に規定として明記すればより現状に即した内容となる。ただし、一部消費者が懸念しているような「まずは置き配ありき」という標準化ではなく、選択肢の1つとして追加するという意味にほかならない。


ヤマト運輸の「宅配便運送約款」では置き配や宅配ボックスについて記載(出典:国土交通省)


2 盗難などトラブル防止へのガイドライン策定


「置き配」による荷物の盗難や破損といったトラブルへの防止策や対応策、責任分担の明確化、保険などについてのガイドラインを定める方向で検討を進める。あくまでも「消費者の指図に従って指定場所に置く」という性質を踏まえ、その留意点や責任の所在を消費者、宅配事業者、Eコマース事業者等の関係者間で明確化。リスク分担を図るための方策を検討しガイドラインに盛り込むことで、トラブル発生時の課題解消につなげる。


「置き配」を選択したくないという消費者が挙げる理由のほとんどが盗難・破損・配送ミスのため、ガイドライン策定により消費者の「置き配」への理解増進を図る考えだ。


盗難など置き配トラブル防止にガイドラインを策定(出典:国土交通省)


3 オートロック式集合住宅での解錠による置き配


「置き配」でネックとなるオートロック式マンションなどにおけるエントランスの解錠について、配送データ形式共通化など事業者間での連携や国の支援施策のあり方について検討を進める。


オートロック式集合住宅における「置き配」対応ではすでに複数のシステム開発企業がエントランスの解錠を可能とするシステムを開発・販売し、賃貸マンションを中心に少なくとも2万棟以上の導入事例がある。防犯・セキュリティ面を重視し、配達員の身元確認や入館時の記録を残したうえで、あらかじめ受取人が登録した荷物のみ1回限りで配達員の入館が可能となる仕組みだ。

マンションオーナーや管理組合の同意形成が前提だが、基本的に現状では事業者ごとに異なるシステムが導入されているため、住民はエントランス解錠による「置き配」を選択しにくい。ただ最近では複数事業者間でシステム連携の動きが進んでいることもあり、伝票番号など配送データ形式の共通化を事業者間で進めるための開発費用補助支援策について検討を行う。国土交通省は早ければ26年度に共通システムの導入を予定している。


ところがその一方で、この支援策案が報道された9月にはSNSなどで「いつでも自由に解錠できる」との誤解が広まり、犯罪リスクを危惧する批判の声が相次いだ。特に代替案として、宅配ボックスの設置費用補助を求める意見が目立った。

オートロック施錠の前提としては、現状のシステムでも「マンション管理組合等での事前の合意形成」「あらかじめ受取人が登録した荷物に限定」「配送人の身元確認や入館時の記録を残す」との条件が確保されている。新システム導入後も当然ながらこれらは担保されるが、国土交通省には消費者の不安や誤解を解消するための周知徹底が求められる。


オートロック解錠では配送業者間のシステム連携を検討する(出典:国土交通省)


4 宅配ボックスの設置推進


既存の戸建て住宅では宅配ボックスを設置していない世帯が多いことに加え、築31年以上のマンションにおける設置率は1割を下回る。背景には、設置するのに十分なスペースがないことや費用負担といった課題がある。


これまで国土交通省は宅配ボックス設置について、「改正マンション関係法」で決議要件を緩和し設置しやすくしたほか、子育て世帯の設置に支援金を出すなど普及を促してきた。提言では、今後はマンション区分所有者や賃貸マンションオーナーなどの理解を得て連携を進めながら、設置に向けて周知・啓発を行うとしている。利用状況の見える化や荷物配送時の通知機能など、宅配ボックスの機能高度化を進め、事例の共有や横展開を図っていくことが望ましいという。


提言にあるように、宅配ボックスの機能高度化は着実に進んでいる。クール便も保管可能な冷凍冷蔵ボックスや、配達員が暗証番号を設定せずに施錠できる電気式宅配ボックス、コントロールセンターと連携し遠隔監視でトラブル対応できる宅配ボックスなどが登場。さらに最近では、マンション1階の共用宅配ボックスと各住戸の居住者専用宅配ボックスをクラウド連携し、双方の空き状況をリアルタイムで把握し配送員に自動案内する機能なども導入されている。


ただ、まず優先すべきは、機能高度化以前に各建物に宅配ボックス自体を増やすことではないか。設置への啓蒙だけでなく、今後建設される集合住宅には設置を義務付け、既存の集合住宅には設置費用補助金を出すなどの施策が必要と思われる。


まとめ



検討会設置の狙いは再配達を減らし事業者の負担軽減を目指すものだが、今回の提言は従来の取り組みについての報告や要望が目立ち、期待したほど新たな施策は盛り込まれなかった印象がある。


注目度が高かった再配達有料化にも触れていないが、これに関してはあくまでも「事業者判断」というスタンスのようだ。避けては通れない重要課題であるため、今後は時間をかけて、配送業界全体で議論しながら統一した仕組みや金額を調整していくことになる。当然ながら、国土交通省主導によるガイドライン策定も欠かせないだろう。


執筆者/渡辺友絵




【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。



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