通販専門放送局を運営するジュピターショップチャンネルとQVCジャパンの大手2社が、既存顧客活性化と新規客開拓を見据えタッチポイント拡大に注力している。ライブコマースやソーシャルコマース、メタバースといったデジタル施策に加え、店舗展開やイベント開催などリアルとの連動も強化。前期業績が好調だったことも追い風となり、攻めの姿勢で取り組む。

JSCが過去最高の売上高達成、QVCは減収減益も安定基調
24時間体制のテレビショッピング専門チャンネルを手がけるジュピターショップチャンネル(以下JSC)とQVCジャパン(以下QVC)は、電話やスマートフォン、パソコンなどを通じた視聴者からの注文をリアルに受け付ける双方向型ライブ放送を実施。InstagramやX、YouTubeといったSNSでも番組放送や情報発信を行っている。
JSCが2025年6月に発表した25年3月期決算は、売上高が前期比5.9%増の1,677億9,200万円と拡大。2期連続の増収で、過去最高となった。営業利益は同14.0%増の233億4,600万円、当期純利益は同15.1%増の166億8,600万円だった。
画面表示刷新や番組新企画、深夜帯番組の充実をはじめ、新設したEC本部を通じてTV・デジタル・リアルの連携強化を推進。ポップアップストア出店や常設店舗におけるイベント開催、中国向け越境ECでのライブコマースなどが増収に貢献した。
QVCの24年12月期決算は、売上高が前期比0.6%減の1,317億1,900万円、営業利益が同6.3%減の246億4,300万円、当期純利益が同6.1%減の174億7,600万円となった。前期に比べ減収減益となったものの、22年度以降は1,300億円台の売上高を維持し安定した利益を確保している。
AIが自動生成した動画の活用やメタバース導入による新たなショッピング空間の提供など、デジタル技術を積極的に活用。来場者参加型のファッションイベント開催や地方振興フェアへの参加といったリアルの場を通じ、知名度浸透を図った。
<JSCの取り組み>
今秋に新ソーシャルコマースを開始
2025年6月、多様化する価値観や生活スタイルに対応するため、今秋から「暮らし」と「美容」をテーマに2つの新ソーシャルECを始めると発表した。21年にスタートしたショッピングライブサービス「コレイヨ」を終了し、培った知見を生かしながら、顧客同士がつながったりプロからの情報を得られたりする場を提供する。「コレイヨ」より平均年齢が高い40代以上の自社既存顧客をターゲット層に見込む。
ホームグッズ、家電、食品などを扱う「暮らし」がテーマの「うちのね、」は、ユーザー参加型のUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)コマース。インフルエンサーや一般客による投稿を通じて暮らしを彩る商品を紹介し、共感やリアルな声を軸とした購買体験を提供する。
コスメやヘアケア、美容家電、サプリメントなどを扱う「CanauBi(カナウビ)」 は、良質で信頼できる情報を提供するエイジングケア特化メディア。美容家や専門医などによるオリジナルの記事・動画などを通じて、知識と商品と組み合わせた美容体験を提供する。

開始後4年間で知見を積んだ「コレイヨ」(出典:ジュピターショップチャンネル)
越境ECはライブコマースを強化
2024年3月から中国向け越境ECに着手しており、25年3月には初めて中国人インフルエンサーによるライブコマースを中国SNSの「 Weibo(ウェイボー)」で実施した。中国でのブランド認知向上と販売強化を目的に、556万人のフォロワーを有するリンピン氏を起用。アコヤパールを中心とした日本製パールジュエリーを販売したところ、多数の視聴者獲得につながったという。
中国向け越境ECでは24年3月に越境ECアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」に出店しており、ファッションアイテムなどを販売。「ワンドウ」はインアゴーラ社が開発・運営する越境ECショッピングアプリで、中国国内で唯一日本商品に特化した品揃えで展開する。ジャパンメイド人気をフックに、現地での越境EC拡大と新規客獲得を見込む。
リアル戦略の専門部署を新設
デジタルとリアルを組み合わせたタッチポイントの強化にも積極姿勢で臨む。2024年2月の都内・二子玉川蔦屋家電に続き、25年3月には都内・北千住マルイにポップアップストアをオープンした。二子玉川店は美容系が中心だったが、北千住店はファッション系を中心に据えた。
二子玉川店では商品をその場では販売せず、来店客は商品に掲示してあるQRコードを読み込みECサイトから購入する「ショールーミング店」として展開。しかし、その場で購入したいという声も多かったため、北千住ではQRコードを付けずに店舗で購入する形に変えた。
リアル展開はさらに重要になるとの考えから、24年12月にはリアル戦略を考える専門部署を新設。ポップアップストアに加え、常設店舗でのイベント開催や招待制の商品即売会など、新規客と既存顧客の双方に向けた施策を展開していく。

北千住のポップアップストアはファッション系中心(出典:ジュピターショップチャンネル)
<QVCの取り組み>
アバターAIがライブコマース
AIやメタバースなど先進的なデジタル手法に積極的なQVCは2025年4月、自社ライブコマースグルメ番組の接客スタッフに初めてアバターAIを起用。ショッピングナビゲーターとしてAIに商品スペックや販売情報などを学習させ、さまざまな受け答えができるようにした。協業するNTTドコモのSNSでも事前告知したため、視聴者数は従来の約3倍になったという。
AI活用では21年12月から、ユニゾンシステムズ社と共にショート動画の自動生成システム「AIダイジェスト」の開発に着手している。番組内の要所シーンを抜き出し短尺に自動生成するもので、24年2月に運用を開始。ECサイトとモバイルアプリの一部商品ページでAIが生成したショート動画を流しており、今後は導入時間の拡大を進める。

アバターAIが接客スタッフを務めた(出典:QVCジャパン)
期間限定でメタバースも展開
新規層へのリーチ施策として、NTTドコモとの協業でメタバースにも進出。23年12月から24年4月まで、QVC本社屋を模したメタバースのショッピング空間をオープン。Relic社が運営する「MetaMe(メタミー)」上で展開するもので、ショッピングエリアやイベントスペースなどで構成した。
来訪者は分身アバターを作成後、メタバース空間へ遷移。アバター同士でチャットや絵文字機能によるコミュニケーションを楽しめ、買い物に加えて催し物やパブリックビューイングなどにも参加できる。アバター操作に不慣れな人でも動き回りやすいように、初心者を意識した設計に力を注いだという。期間中には、米国発人気スニーカーQVCモデル商品の先行販売も行った。

メタバースでは米国人気スニーカーを先行販売(出典:QVCジャパン)
イベントなどリアル展開も強化し接点拡大
コロナ収束後から、リアル展開も本格的に再開した。2025年4月には、都内の地方振興イベントに特別協賛企業として参加。自社人気ゲストによるトークショーや、日本各地の特産品を楽しめるブースを展開した。旅行券などが当たるキャンペーンも実施するなど、新規客開拓や告知浸透を図った。
24年秋には、顧客参加型の催しを次々に開いた。9月には都内で、「美と健康」をテーマに約100点の人気コスメなどを試せる催事を開催。テスターやサンプルを試した後、会場設置のQRコードからその場での購入もできるようにした。著名ゲストのトークショーやWEB会員登録でのプレゼント提供などを通じ、新規ユーザー獲得につなげた。
10月はファッションイベントを千葉県で開き、プロスタイリストによるコーディネート提案や来場者参加型のファッションショー、著名人のトークショーなどを実施。会員や友だち登録で豪華賞品が当たる抽選会も行った。
さらに11月には40~50代という自社顧客層の年代に向け、美容家や精神科医によるセミナーの招待イベントを都内で開催した。加齢による体調の変化やそれに伴う悩みを取り上げ、学びと共感の場として提供。コスメやサプリなど対象層を意識したフェムケア商品を陳列し、参加者が試せるコーナーも設けた。
まとめ
テレビ離れが加速する中、両社とも24時間専門放送というビジネスモデルだけでは勝負できない時代を迎えた。そのような状況下で、テレビを中心に据えつつデジタルとリアルも組み合わせて新規客開拓を進める施策は、やはり“王道”といえるだろう。
また、30年近くかけて2社がテレビで開拓してきた顧客は富裕層が多く、これはほとんどの通販・EC企業にはない大きな強みだ。両社はクルーズ事業など高級コンテンツにも力を入れており、ゆとりがある既存顧客層からの需要はとても高い。新規と既存の両顧客層にバランスよくアプローチすることで、業績はさらに伸びていく可能性がある。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。


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