2025.07.09 通販支援
ECでも「推し活」が人気、ヒット商品やギフト需要も
Z世代を中心に、好きなアイドルやアスリート、アニメ・ゲームのキャラクターなどをさまざまな形で応援する「推し活」が広がっている。ライブや番組を観るのに加え、「推し」のグッズを集めたりイメージする服を身に付けたりとその行動が社会現象化し、経済効果も年々拡大。ECでは推し活のヒット商品も生まれ、ギフト市場にも追い風となっている。
約3兆5千億円規模の推し活市場
推し活関連物販やメディア運営を手がけるOshicocoなどが2025年1月に実施した調査によると、国内の「推し活」人口は推計1,384万人となり、1年前より250万人程度増加した。調査対象は15~69歳の日本在住男女で、コア層だった10~20代女性に続いて30代前半女性の増加が目立ち、この層は3人に1人が推し活をしているとの結果が出た。
1年間で推し活に使った金額は1人あたり平均約25万5,000円で、出費額と推し活人口から試算した推し活市場規模は約3兆5千億円となる。出費内容は「公式グッズ」「チケット」「遠征」「CD」の順で、「遠征」「公式グッズ」では9割以上の人が「1年前よりお金をかけるようになった」と回答した。
昨年に続き25年7月には、東京ビッグサイトでトレンドの推し活グッズ・サービスをそろえた展示会「推し活EXPO」が開催されるなど、市場は活況を呈している。
「推し活ジャケット」がECでヒット
推し活する人はさまざまな商品を購入したり持ち歩いたり、さらには部屋に飾ったりするため、推し活用の便利グッズが人気だ。ECでも多くの専用グッズが販売されており、中には口コミなどで広まり売り切れてしまった商品もある。
老舗通販のニッセンは2024年10月、「推し活を応援するアイテム」として、仕事中も「推し」と一緒にいられるダブルジャケットを発売した。とことん収納力にこだわったのが最大の特徴で、推しの缶バッチやぬいぐるみ、アクリルスタンド、チャームやストラップなどを収納できる多くのポケットを表地と裏地に装着。グッズを下げられるようにゴムループや金具も付けた。
この「推し活ジャケット」は公式SNSで話題になるなど大反響で、発売開始当日に完売した。その後もXの公式アカウントによる投稿は470万を超える表示数、1万6,000件以上の”いいね”を獲得。すぐに当初販売予定数を増やし、1週間後には予約販売を再開するヒット商品となった。その後、サイズとカラーを拡充し、セットアップのパンツスーツも新たに投入している。
商品を企画・開発したのは入社間もないZ世代の新卒社員で、幼少期からの推し活実践者。社会人になると、推しグッズを付けたり持ち歩いたりする機会が減ってしまったため、仕事中も推しグッズを包み込めるジャケットを思いついたという。
推しグッズの収納にこだわったジャケット(出典:ニッセン)
収納に工夫を施したバッグや家具も人気
大手カタログ通販のディノスも、ECなどで「大人の推し活トートバッグ」を売り出している。仕事後に夕方からライブに行く日でも会社からそのまま持っていかれるバッグで、オフィス使用に馴染みながら現場で必要なグッズをすべて収納できる。推し活をしていることを社内で悟られないように、大人っぽく見えて普段使いできることにこだわった。
うちわやペンライト、双眼鏡など現場で使うかさばりがちなグッズを外から見えないように収納することが可能。内側にはグッズの転落を防ぐゴム入りポケットや、キーリングストラップなどを付けられる金具を装着した。推し活をしている20~50代社員が意見を出し合い、自分たちの視点を重視して商品企画したという。
バッグにはこれら推しグッズが全て収納できる(出典:ディノス)
ファッション系にとどまらず、集めた推しグッズを効率的に収納できる家具やディスプレイボックスについても、各社が「推し活収納」を前面に出して展開する。
ディノスは壁にもかけられる薄型仕様の4段収納棚棚を開発し、最上段にはキーホルダーやストラップを吊るすためのバーを設置。板の細い溝にはトレーディングカードやポストカードを飾ることができる。窓と階段が付いた2階建ての収納家具も、「推しが住む部屋」の名称で販売している。
ニトリも、複数の推し活用収納棚やディスプレイボックスを展開。ペンライトを3本収納できる専用穴やグッズのサイズに合わせて調節可能な棚を装備するなど、仕様に工夫を凝らす。ストラップ用のバーが付いたものや引き出し・収納ケース付きのものまで、幅広い商品をそろえている。
無印良品でも、壁に取り付けられるアクリル製の小ぶりの棚からコの字型セット、引き扉付きコレクションスタンド、立てかけられるカードファイルなど、シンプルでお手頃価格の商品を展開する。
ペンライトが3本収納可能なコンパクトボックス(出典:ニトリ)
推しや仲間へのソーシャルギフトがトレンドに
推し活では“推し”にプレゼントを購入する人も多いが、こういった背景からギフト市場も伸びている。中でも昨今のトレンドとなっている、相手の住所や本名を知らなくても匿名で贈れるソーシャルギフトが人気だ。
オンライン経由で贈れるeギフト事業を手がけるギフティは2024年10月、11月4日の「いい推しの日(「い(1)い(1)お(0)し(4)」)」に合わせて「giftee Box for 推し活」の販売を始めた。同社のeギフトサービス「giftee」を利用する推し活ユーザー1,000人の意見を参考に商品を集めたデジタルギフトボックスとなる。
カフェチケットやコンビニスイーツ、マッサージ券、映画チケットなど、贈られた推しが自分で選べる約450のeギフトをラインナップ。「幸せをありがとう」「推しの健康祈願」といったメッセージ入りカードも一緒に贈ることができる。ソーシャルギフト機能を用い匿名で気兼ねなく贈れるため、推し活ユーザーに好評という。
さらに、推し活ユーザーであるファン同士が、推し活仲間内で手軽なギフトを贈り合う場面も増加。住所や本名を知らない仲間にもオンライン経由で簡単に贈れることから需要が高まっており、ギフト市場の底上げにつながりそうだ。
社内の「部活」も商品開発やイベントで活躍
老舗通販のフェリシモは、社員が好きなことを部活動として進める社内制度「フェリシモ部活」を奨励している。所属部署に関係なく、同じ「好き」を持つ人と好きなものをテーマにして社内事業化を目指す仕組みだ。さまざまな商品を開発しており、業界でも認知度が高い「猫部」をはじめ、「おてらぶ」「ミュージアム部」「魔法部」など現在17部が活動している。
その中の1つが、2021年8月に立ち上がった「オタク活動推進部(略して“オタ活部”)」。推し活好きな社員たちが、それぞれの“推し”が好む“推し色”をおしゃれに楽しむブランド「OSYAIRO(おしゃいろ)」を立ち上げ、推し活グッズを商品化している。
第一弾として、「尊い」「激推し」「神」などの「推し言葉」をデザインした「ときめく推し文字ネイルシール」を企画。その後もペンライトが収納できるガジェットポーチやハート型イヤホン、クッション素材のアクリルスタンドケース、ジャンボうちわが入るトートバッグなど、豊富なカラーバリエーションで多くの推しグッズを世に出し続けている。
グッズ販売にとどまらず、「推し活ワークショップ」といった体験イベントも開催する。推し活ファンが集まり、事前に申請して配られた推し色のリボンセットを使って自分だけのペンライトリボン作りにチャレンジ。その後、推し色のドリンクを受け取り、各自で推しトッピングを施すなどの体験を提供した。
第一弾の「推し言葉」をデザインしたネイルシート(出典:フェリシモ)
まとめ
疲れた時や落ち込んだ時、励まされ、癒されるという「推し活」。今や趣味の世界を離れ、国内消費経済の盛り上げ役として定着している。
一方でつい最近、アイドルや推しを応援するオリジナルクレジットカードが発行から数日で受付を中止し、返金に追い込まれるといった動きもあった。利用額の一部が活動資金に還元されたり、決済額に応じた限定特典が提供されたりする仕組みが批判を受けたことが背景にあるようだ。
この件の是非はともかく、推し活にはそれなりのコストがかかることから、推しユーザーは自分の収入に見合った出費を心がける必要があるだろう。ただ、ECで販売されている推しグッズは商品内容に見合った適正価格なうえ、販売側の工夫や思い入れがうかがえる。こういったこだわりの商品開発は通販・EC企業の強みといえるため、今後も推し活市場拡大に大きな役割を果たしていく可能性が高い。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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