2026.11.04 調査・統計
ECアナリストによる解説シリーズ 『このデータが面白い!』 第13回:【経済産業省発表】2025年のEC市場規模を知る
(株)デジタルコマース総合研究所代表の本谷(もとたに)です。ECアナリストによる解説シリーズ『このデータが面白い!』の、今回のテーマは「経済産業省発表の2025年のEC市場規模」です。
経済産業省が毎年EC市場規模を発表していることはご存じの通りでしょう。私は前職時代(大和総研)に2014年から2020年にかけて同調査を手掛けていました。そのような経歴もあって、同調査案件から離れた後も、毎年公開されるこのEC市場規模は気になるデータのひとつです。
このデータは経済産業省から無料で公開されているため、多くの事業者や業界関係者が参考にしていることと思います。また多数のネットメディアやブログなどでも幅広く引用されていますので、世の中の関心が強いことがわかります。では具体的にどれくらいの規模感となっているのか、10月21日に公開された2025年のデータを具体的に見てみましょう。
・対象データ
経済産業省「令和7年度電子商取引に関する市場調査報告書」
https://www.meti.go.jp/press/2026/10/20261021001.html
■前回記事
ECアナリストによる解説シリーズ 『このデータが面白い!』 第12回:ふるさと納税の状況を多面的に解明してみる
BtoC-ECのEC化率は0.02ポイント増と実質的に成長していないことが明らかに
はじめにBtoC-ECの市場規模全体について見てみましょう。2025年は15兆8,233億円と前年比で3.97%の伸びとなりました。一方EC化率は9.80%と前年からわずか0.02ポイントの伸びにとどまっています。
15兆8,233億円と言われても、数値が大きすぎてピンとこない方は多いでしょう。参考までに、同年のスーパーマーケットの市場規模(※GMS含む)は16.8兆円、コンビニは13.3兆円、ドラッグストアは9.4兆円です。スーパーマーケットには僅かに及ばないものの、コンビニやドラッグストアを上回っており、BtoC-EC市場規模の大きさを理解できると思います。
ところで私の注目点はEC化率です。前年から僅か0.02ポイントしか伸びていません。つまり市場規模は3.97%伸びていますが、(EC化率算出の分母となる)ECを含む個人消費が、ほぼ同じだけ伸びているということです。このことは、BtoC-ECは実質的にほとんど成長していないことを示しています。
このような現象が起こっている原因は「物価高騰」ではないでしょうか。私の分析では、EC市場は実店舗よりも平均販売価格が低く抑えられる傾向にあり、そのために市場規模が伸びづらくなっていると思われます。これはEC市場の特徴であり十分ご認識いただければと思います。
物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移(単位:億円)
出所:上述の通り
BtoC-ECのカテゴリー別では「化粧品・医薬品」が順調
BtoC-ECの市場規模をカテゴリー別に見てみましょう。前年比で最も高い伸び率は「食品、飲料、酒類」で6.96%となっています。まさに物価高騰の影響を受けている結果と思われます。
次いで伸び率が高いのは「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」で5.05%です(※自動車、自動二輪車、パーツ等を除く)。2025年はWindows10のサポート終了に伴うPCの買い替え需要が高く、また猛暑によりエアコン販売が好調であったことが要因と思われます。
このなかで私の注目は「化粧品、医薬品」です。4.90%増の1兆647億円と順調に伸びています(※同カテゴリーのEC市場規模は約9割を化粧品が占めている点に留意して下さい)。Qoo10の流通総額が伸びているのはもちろん、EC売上高が好調であるコスメブランドを多く目にします。その裏付けがこの数値に現れています。
なお「衣類・服飾雑貨」が3.43%増にとどまっています。主要各社の決算状況を踏まえれば、私は、同カテゴリーはもっと伸びていても不思議ではないと思っています。経済産業省発表の推計データはいわば公式記録のようなものですが、実態とやや離れているように感じます。
出所:上述の通り
BtoB-ECは「サプライチェーン型」の市場規模である点に注意
続いてはBtoB-EC市場規模です。2025年は560兆870億円となりました。伸び率は8.88%である一方、EC化率は2.8ポイント増でしかありません。BtoB-ECも物価高騰によって分母が拡大し、その結果BtoB-EC市場規模の伸びは低く抑えられたということでしょう。
ところでBtoC-ECと比較しBtoB-ECの市場規模は巨大です。金額が巨大になっているのは理由があります。明確に示されていませんが、経済産業省のEC市場調査ではBtoB-ECを「サプライチェーン型(EDI型)」と定義しています。原材料の調達~加工~組み立て~卸~小売といった一連のサプライチェーン毎に都度商取引が行われるため、二重、三重に売上高が計上されます。結果的に合算された市場規模が大きくなってしまうというわけです。
ちなみにサプライチェーン型(EDI型)のBtoB-ECですので、アスクル、モノタロウといった「小売型BtoB-EC」はこの市場規模には含まれていません。私の独自推計では「小売型BtoB-EC」の市場規模は数兆円程度です。ミスリードしないよう、十分に気を付けてください。
出所:上述の通り
米国消費者からの越境ECは「デミニミスルール」の影響があった可能性
越境ECの市場規模についてもチェックしてみましょう。中国人消費者による日本商品の購入は2兆7,560億円で前年比4.5%増となりました。また米国消費者からは1兆6,527億円となりました。後者についてはトランプ政権によるデミニミスルール廃止の影響があったように思えます。
ここでの注意点は日本の消費者による中国からの購入が486億円とされている点です。近年、Temu、Sheinが日本のEC市場にも浸透しています。両社はいわゆる中国からの越境ECに相当しますが、少なく見積もっても486億円以上はあるでしょう。したがって経済産業省発表の数値は正しくないと思われます。この点についても注意しておいた方がよさそうです。
なお、越境ECのビジネスモデルは「直送型」「一般貿易型」に大別できます。前者は注文を受けて日本から配送するケースであり、後者は相手国に一般貿易であらかじめ輸送しておいた後に、受注後相手国の倉庫から発送するケースです。経済産業省発表の市場規模は両者の区別がなく合算されたものとなっている点にも留意しておくとよいでしょう。
出所:上述の通り
「サービス系分野」は「フードデリバリー」を除き軒並み好調
「サービス系分野」のBtoC-EC市場規模にも触れておきたいと思います。2025年は前年比で8.64%増の8兆9,362億円となっています。表の通り、同分野では「フードデリバリーサービス」を除き軒並み好調のようです。
同分野で最も市場規模が大きいのは「旅行サービス」です。3兆7,603億円と前年から6.68%伸びていますが、2024年の伸び率は10.32%であったため、伸びがやや鈍化していることが分かります。また「飲食サービス」も2024年は18.70%の伸びでしたが、2025年は13.34%に低下しています。ここでいう飲食サービスとは食べログ等の予約サービスを指します。
旅行、飲食共に高い伸び率ではあるものの、コロナが終息して以降勢いがあった状態と比較すると、若干落ち着いた感があります。物価高騰が一因と思われ、旅行や外食を少しばかり控える傾向があったかもしれません。とはいえ旅行、サービス共に高い伸び率であることに変わりはありません。
サービス系カテゴリーの中では「フードデリバリーサービス」の伸びが低く、3.43%の増加にとどまっています。2026年には「menu」「Wolt」が相次いで撤退するなど、フードデリバリー業界は競争が厳しい状態となっています。2025年は3.43%しか伸びておらず、このデータからも同カテゴリーの厳しい状況を知ることができます。
出所:上述の通り
「デジタル系分野」はカテゴリーによって明暗が分かれる
最後は「デジタル系分野」です。2025年は前年比で4.52%増の2兆7,985億円となっています。デジタル系分野は「その他」を除き4つのカテゴリーで構成されていますが、表の通りカテゴリーによって明暗が分かれています。
同分野で最も市場規模が大きいのは「オンラインゲーム」です。しかし伸び率はわずか1.65%でしかありません。また「オンラインゲーム」についで大きな市場規模は「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」ですが、こちらも2.18%増にとどまっており、近年伸びが鈍化していることがわかります。
一方で伸び率に着目すると「有料音楽配信」が8.65%増、「有料動画配信」が13.66%増と勢いがあることが分かります。2024年はそれぞれ5.84%増、3.31%増でしたので、2025年は共に大きく伸びた年でした。しかしこれらのカテゴリーも競争が激しいことはわかっており、今後については楽観視できないと想定されます。
出所:上述の通り
以上
【筆者プロフィール】
本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役 ECアナリスト
シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。その他日本政府の調査研究案件の実績多数。
2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、豊富なデータに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイス、および講演・執筆活動等を行っている。
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。
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