2026.09.15 通販支援
中小EC事業者が「エージェンティックコマース」を成功に導く方法とは?
EC業界は、AIエージェントが消費者に代わって商品を探し、購入手続まで行う「Agentic Commerce(エージェンティックコマース)」の時代に突入しつつある。中小のEC事業者がエージェンティックコマースに取り組む場合、何から始めればよいのだろうか。forest CMOの石川森生氏、forest開発事業部長の藤井慎太郎氏、Shopify Japanカントリーマネージャーの馬場道生氏が、最短距離で成功につなげる方法を解き明かした。
<座談会参加者>
forest CMO 石川森生 氏
forest ソリューション事業部開発部長 藤井慎太郎 氏
Shopify Japan カントリーマネージャー 馬場道生 氏
日本では消費者側から始動
石川森生氏(以下、石川):ECとAIの結合に関心が集まっていますが、どのような状況ですか?
馬場道生氏(以下、馬場):従来のECは、消費者が商品を検索・比較し、購入するという流れでした。ところが、今は商品を見つけることも、発見されることもAIが中心となっています。
例えば、ChatGPTが世界中で行う検索の14%以上がショッピングに関するもので、世界の47%の人がAIからレコメンドを受けています。また、AIを活用して商品を見つけた経験がある人は35%を占めます。
そうした流れは世界的に加速していて、特にEC市場規模が1位の中国と2位のアメリカが進んでいるようです。
石川:日本は遅れを取っていますが、国内のEC事業者様にとって、どのタイミングでエージェンティックコマースに取り組むべきかの判断は、簡単ではありません。
馬場:少し前までは、「まだ先のこと」という考え方が主流でした。しかし、AIの普及は加速度的に進み、各種調査を見ると、日本では消費者側がすでに動き始めています。
石川:ECに限らず、消費者にとってAIは意思決定のインフラになりつつあり、20代では5割が活用していると言われているほどですから。
私が責任者をしている「KANADEMONO」というブランドについて、Xなどでエゴサーチ(世間でどう評価されているのかを確認)やユーザーアンケートを実施していますが、「『この商品があなたにぴったり』とChatGPTに言われたので買いました」といった話が多数見られます。
一方、国内のEC事業者様のニーズはどのような状況ですか?
藤井慎太郎氏(以下、藤井):私は「Shopify」構築事業に携わっていますが、EC事業者様からもそうした話を耳にする機会は、かなり増えたと感じています。
ただ、AIエージェントを活用してお客様に来ていただくために、何かできそうなことはわかっているものの、具体的にどうすればよいかを理解し、行動しているEC事業者様は少ないですね。
業界は1つの標準規格に集約へ
石川:ChatGPTの取り組みとして、AIのセッション内でInstant Checkout(インスタントチェックアウト:AIチャットなどでの即時決済)が撤回されたというニュースが、今年3月ごろから出てきました。AIによる購買の波は来ないのではないか、と気がかりですが…。
馬場:“撤回”というよりかは、アップグレードですね。 このアップグレード版により、数億人規模のChatGPTユーザーは、チャット画面を離れることなく「Shopify」加盟店でショッピングを行い、アプリ内ブラウザで決済を完了できるようになります。ブランド体験、価格設定ロジック、決済方法、チェックアウト時のカスタマイズといった加盟店側の設定もそのまま引き継がれます。ゴールは、AIとの対話の中で、またはAIとの対話の延長線上で、消費者の購買意欲が最も高まった瞬間に、消費者がいるその場所でシームレスに購入してもらうことです。
エージェンティックコマースは始まったばかりで、各社が最先端技術を用いて試行錯誤を重ねている最中です。
石川:まさに変革期ですね。現在、Googleなどが共同開発したUCP(ユニバーサルコマースプロトコル:AIエージェントによるオンラインショッピングの標準規格)に、大手企業が続々と参加していると聞いています。
馬場:UCPは今年1月に、ShopifyとGoogleが中心となって開発しました。これは、AIエージェントがあらゆるマーチャント(加盟店)と接続して、安全に取引するためのルールで、共通言語のようなものです。
発表後の3カ月間に、Amazon、Meta、Microsoft、Salesforceの各社さん、最近ではStripeさんも、UCP運営会議に加わったというニュースがありました。業界が1つの標準規格にまとまりつつあるというのが実態です。
石川:藤井さんはエンジニアの目線から、こうした動きをどのように見ていますか?
藤井:率直に言うと、非常にありがたいですね。標準規格がないと、各カードシステムや事業者様が、ChatGPTやGoogleなどとの連携をそれぞれ構築しなければならず、途方もない話になります。
UCPという共通の規格を使ってビジネスを推進できることは、開発目線からすると、低コストで済み、非常にポジティブな話ですね。
forest ソリューション事業部開発部長 藤井 慎太郎 氏
中小EC事業者も世界の大市場へ
石川:ChatGPTなどのチャネルを通じた直接販売について、日本ではチェックアウトが解禁されていませんが、日本に向けて開放され、購買ができるようになる見立てはあるのでしょうか?
馬場:現時点では時期は未定としかお伝えできませんが、日本の加盟店もアメリカの消費者向けであれば、AI経由で商品を販売できる仕組みがすでに始まっています。アメリカは世界第2位のEC大国で、その大きな市場の消費者に直接販売できるようになったことは、コマースのあり方を大きく変える出来事と言えるでしょう。
海外へ販売する場合、これまでならばオンラインストアを構築し、ローカライズを行って、現地の言葉でマーケティングを展開するといった準備が必要でした。ところが、AIとの対話そのものが販売チャネルとなるため、そうした煩雑な準備が不要となります。
国内の「Shopify」の加盟店では、AI経由でアメリカの消費者へ販売し、わずか数時間で数百万円を売り上げた事例も出始めています。企業の規模を問わず、世界最大級の市場にアクセスできる時代が始まったわけですね。
Shopify Japan カントリーマネージャー 馬場 道生 氏
正しい取り組みの手順とは?
石川:日本の加盟店がAIの流れに乗って事業展開するために、どのような順番で何をすべきでしょうか?
馬場:最初に、構造化された完全な商品データを準備することが必要です。AIが理解できる形のデータとして、サイズ・価格や在庫などの情報を整備することから始めなければなりません。
その施策として、例えばGTIN(商品識別・管理の国際標準コード)への対応があります。あるデータによると、GTINを99%整備することで、AIから見える部分が3~4倍に拡大するそうです。
2点目として、AIに参照されるFAQの整備があります。各オンラインストアでは返品ポリシーや配送スケジュールなどを用意していますが、AIが読み取れる形にすることが重要です。
最後に、データを整備できたら、Gemini、ChatGPT、Copilotといった複数のAIチャネルに自動配信できる仕組みに乗っかることが必要となります。それぞれのAIチャネルに、個別に対応することは極めて困難なためです。
石川:「Shopify」の活用で、AIフレンドリーな状況を作り出すことが容易になるわけですね?
馬場:そうです。「Shopify」はエージェンティックコマースへの対応として、いくつかの重要な取り組みを行っています。
1点目は、Shopifyカタログ。「Shopify」には全世界に数百万の加盟店がいて、数十億点の商品が売られています。これらがShopifyカタログに載り、それをAIが横断的に検索できる仕組みを提供しています。
2点目は、knowledge base(ナレッジベース:情報を集めたデータベース)を用意し、返品ポリシー、配送情報、FAQなどを記述できる機能を提供していること。これにより、AIが検索した際に、ブランド情報をしっかりと説明できるようにしました。
そして3点目が、エージェンティックストアフロントです。チェックボックスにチェックを入れるような手軽さで、OpenAIやGeminiなどで販売できるようにしています。
個別対応は非現実的
石川:先ほど馬場さんがおっしゃっていましたが、個別に対応しようとするとどれほど大変なのかについて、エンジニアの目線でお話していただけますか。
藤井:個別に対応する場合、途方もない労力を要する初期構築に加え、とんでもない量の保守対応を継続することになるでしょう。
このため、SaaSの形で乗っかることができれば、加盟店にとってはそれだけでも価値があると思いますよ。
石川:一方、事業者様の側では、「『Shopify』に全部乗せ替えなければならないのか」と捉えるかもしれませんね?
馬場:確かに、「Shopify」は過去20年にわたり、コマースの全ライフサイクルを単一のオペレーティングシステムへと統合してきました。これにより、加盟店が自ら行う必要のあった複雑な作業を不要にし、「Shopify」の管理画面から一元管理できる主要なAIチャネル(ChatGPT、Microsoft Copilot、Google検索のAIモード、Geminiアプリ)をすぐに利用可能な状態で提供しています。ただ、海外では「Shopify」に乗っからなくても、Agentic Plan(エージェンティックプラン)の活用により、AI経由での販売が可能となっています。
石川:エージェンティックプランは、Shopifyカタログにデータを登録できるというイメージでよろしいですか?
馬場:そのとおりです。Shopifyカタログはデータレイヤー(一時的なデータの保管場所)であって、配信レイヤー(配信画面の装飾)として、「ChatGPTで売る」「Geminiで売る」といった選択ができるわけですが、その部分だけが提供されるというイメージを持っていただければと思います。
押し寄せる「AIの民主化」の波
馬場:「Shopify」では年に2回、大規模なアップデートを行っています。毎回150以上の新機能が実装され、主にAI関連が中心となっています。
当社のミッション「誰もがより良い商取引をできるように」の下、コマースの民主化を進めていますが、ちょうどAIの民主化のタイミングと重なった感じですね。
今年6月のアップデートでも、目玉はエージェンティックコマースへの取り組みの強化でした。カタログAPIのデータ構造をアップデートし、画像検索に対応できるようにするとともに、商品の詳細情報もAIとの対話の中に表示するようにしました。
ナレッジベースについては、返品ポリシー、配送情報、FAQなどが「Shopify」の管理画面で操作できて、管理画面上でブランドの見え方を最適化できるようにしました。
石川:AIに業務を代行させる点では、どのような機能がありますか?
馬場:顧客対応でいうと、お客様からの問い合わせが来るメールインボックスに対し、AI接客が実装されました。24時間365日、データに基づいたAI接客が可能です。
また、「Sidekick Pulse」が前回のアップデートで実装され、今回さらに強化されました。従来のAIはどちらかというと受動的で、質問すると答えてくれますが、これに対して「Sidekick Pulse」は能動的で、問題が発生する前にAIが先回りして提案します。例えば、在庫が少ないと、「足りなくなってきている」と管理画面で提案してくれます。
「SimGym」も前回実装された機能です。AIが仮想ユーザーとしてストアを回遊し、顧客体験に関する潜在的な課題を明らかにして、「ここを改善すべき」と提案してくれます。
オーナーシップを持つことが重要
石川:最後に、国内のEC事業者様へのメッセージをお願いします。
馬場:ECの変革が非常に速いスピードで進行していますが、恐れる必要はありません。なぜなら、AIテクノロジー自体がより使いやすいものに進化し、AIの民主化が始まっているからです。
規模の小さな加盟店にも、大きなビジネスチャンスが訪れています。データの整備と、ブランド・商品の価値をAIに伝えることに、オーナーシップを持つことが大切です。
石川:AIへの対応が不可避な状況の中、個別対応には限界がありますので、「Shopify」という世界最大のSaaSに乗っかることで、ビジネスチャンスをつかむ可能性が高まると思います。もし、「自社で行うことは厳しい」と悩むようでしたら、私たちにご相談いただければ幸いです。
forest CMO 石川 森生 氏
お問い合わせ先
https://forest-inc.jp/contact/retail_techb
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。
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