会員向けコミュニティサイト開設やアプリの刷新・新規導入など、衣料品や生活用品を手がける大手EC企業が顧客との関係性向上に力を入れている。SNSを通じた顧客同士の交流やアプリによる情報発信により、これまで以上に顧客との距離を縮めて絆を強めていく狙いだ。リアル店舗とECを融合させるOMO戦略を推進するうえでも、重要な役割を果たすことになる。
ニトリはファンサイト開設とアプリ刷新を同時に
ここに来て、大手企業がコミュニティサイトをオープンし、双方向マーケティングを通じて顧客の“ファン化”を目指す試みが目立ち始めた。
ニトリは2025年8月、ファンコミュニティサイト「ニトリチャンネル」をオープンした。“暮らしの豊かさを顧客と共創するオープンなコミュニティサイト”として、インテリアのちょっとした工夫やコーディネート、収納術などを顧客同士で気軽にシェアできる。
顧客の投稿や交流を通じ、「こんな使い方があったんだ」「それ、やってみたい!」と思える暮らしのコツやアイデアを見つけ、共感し合うことが狙い。これまで自社サイトやSNSを通じおすすめ商品や使用アイデアを発信してきたが、同じ興味や課題を持つ人が集うコミュニティを通じ、暮らしを彩る新たな発見ができる場を目指す。
ノベルティ提供や商品モニター募集を手がけるのに加え、限定記事など豊富なコンテンツを用意する。ニトリ商品を使った「スペース活用」や「つっぱり棒収納」といったテーマへの投稿写真や投稿記事、チャンネル登録した会員同士で語れるトークルームを展開。会員が購入した商品の紹介や、それに対する他の会員からのコメントなども掲載する。

投稿を通じて顧客同士の交流活性化を図る(出典:ニトリ)
ニトリの25年3月期末におけるアプリ会員数は2,256万人。25年5月には、より便利に買い物を楽しめるように、店舗とECとの連携強化を見据えアプリ刷新にも踏み切った。
会員数の増加に伴い、刷新に際しては新たなアプリマーケティングツールを導入。ユーザーの行動や属性データに応じた詳細なシナリオ設計も視野に入れ、店舗やECサイトの情報も統合したOMO施策で顧客体験の最適化を目指す。
アプリやECサイト、店舗の集客力をグループ全体のビジネス拡大につなげるとしており、「ニトリチャンネル」も顧客との連携強化や業績向上に力を発揮するとみられる。
招待制コミュニティ通じて絆を深めるロハコ
アスクルは日用品ショッピングサイト「LOHACO(ロハコ)」の顧客を対象とした招待制オンラインコミュニティ「LOHACO PARK(ロハコ・パーク)」を開設し、2025年9月からトライアル版の運用を開始した。参加者同士がおすすめ商品や活用方法などを気軽に情報共有できる場として、ロハコをより身近に感じてもらうことが目的だ。
コミュニティを通じて参加者とロハコとの絆を深め、サイト訪問や商品購入促進、口コミによるブランドの告知・拡散を図る。また参加者の声を収集して新たなサービスなどに反映させ、サイト改善や新規企画立案にも活かしていく。将来的には、参加者座談会の開催やオリジナル商品企画の募集なども実施する考え。まずはトライアルとして約100名を対象に運用を始め、反応を検証しながらより広範囲に展開していく予定という。
ロハコは12年にサービスを開始し、今年で13年目を迎える。2年後の15周年を見据え、顧客のロハコへの共感を育むことを目指す。ファンとしてこれまで以上に深く広くロハコを認知してもらえるように、顧客参加型の双方向コミュニケーションで展開する。
アスクルは25年2月に初のピッチイベントを開催し、スタートアップ企業から革新的な新規ビジネスアイデアを募集。このイベントを通じ、コミュニティプラットフォーム事業を手がけるコミューン社との連携による「ロハコ・パーク」が立ち上がった。

まずはトライアルで100名を招待し運用(出典:アスクル)
ワークマンは創業45年目で初アプリをリリース
ECではもはや当たり前のツールとなった公式アプリだが、新たなリリースや一新する動きも目立っている。
「お待たせしました!」のキャッチコピーを掲げ、2025年9月に創業45年目で初の公式アプリをリリースしたのがワークマンだ。全国で1,063店舗を展開しており、人気商品が「どこで買えるかわからない」「売り切れていた」という顧客の不満の声に応えたいと開発した。会員登録すると情報がオンラインストアと連携するため、ECでの購入もスムーズになる。
「ワークマン公式アプリ」では、商品情報や店舗情報、お得情報などをスマートフォンで簡単に検索することが可能。新着商品やアプリでの先行予約販売といった話題性の高い情報も、迅速に取得できる。特集ページではコラボ企画商品やスタッフおすすめランキングなどが閲覧でき、商品レビューやクチコミも利用できる。マイページで注文の状況が分かり、商品を登録先店舗で受け取ることも可能だ。
昨年SNSなどで話題となり、発売開始後売り切れ店舗が続出した断熱材ウェア「XShelter」とリカバリーウェア「MEDIHEAL®」の公式アプリ先行予約販売も開始。昨年、オンラインストア予約販売分2万点が開始後わずか4日で完売した「XShelter」のアプリ先行販売では、2.5倍に当たる約5万点を用意。同様に売り切れが続いた「MEDIHEAL®」は、アプリ先行予約で14万点をそろえる。
昨年は「XShelter」の店頭販売分が3カ月で20万点、「MEDIHEAL®」が累計販売数170万点と大ヒット。そのため多くの顧客が商品を購入できず、SNSでは不満の声が続出した。「ワークマン公式アプリ」の導入により情報をスムーズに届けられ、顧客の不満解決や販売機会ロス解決につなげたいという。
現在、同社は120万人のオンラインストア・メルマガ会員を抱える。そこからの転換も含め、27年には500万人のアプリ会員獲得を目指す。

アプリで人気商品の先行予約販売を実施(出典:ワークマン)
会員プログラム改善に踏み切った良品計画
無印良品を展開する良品計画は2025年9月、13年に導入した公式アプリ「MUJI passport」を「MUJI アプリ」に名称変更するとともに、全面リニューアルに踏み切った。
買い物だけでなく、商品のお気に入り登録や商品レビューの投稿、アプリ内での記事閲覧など、無印良品のサービス利用でポイントを付与。さらに、資源回収・リユース・リサイクルを手がける自社の資源循環活動「ReMUJI」を通じた商品回収や、店舗へのマイバッグ持参といった環境保護活動も対象となる。
貯まったポイントは買い物以外にも、災害復興・人道支援や防災の取り組みなど、社会貢献事業への寄付としても使えるようになった。
同時にこれまでの会員プログラムを一新し、新プログラム「MUJI GOOD PROGRAM」をスタート。従来の「MUJIマイルサービス」は、買い物やお店へのチェックインで貯まったマイルを会員ステージのランクアップなどの条件に合わせてポイントに交換することで、買い物に利用できる仕組みだった。しかし、実際にポイントを使うまでにはステップが多く複雑で、しかも貯めたマイルとステージは毎年2月末にリセットされるため、使い勝手が良いプログラムとは言い難かった。
刷新後はマイルを廃止して「MUJI GOODポイント」に一本化し、買い物で直接貯まったポイントをそのまますぐ使えるシンプルな仕組みに変更。会員ステージ制度も廃止され、有効期限内ならばいつでもポイントを使えるようになった。刷新前のポイントの有効期限は付与後1ヶ月と短かったが、新プログラムでは5カ月と大幅に延長された。
100円で1ポイント付与と還元率は1%となり、これまでの「MUJIマイルサービス」と比べて特に大きな変更はない。マイナス面は獲得しているマイル数と同じマイル数がもらえる「お誕生日特典」の廃止くらいで、全体的に見ればプログラムの改善と言えそうだ。

シンプルな仕組みに会員プログラムを変更(出典:良品計画)
まとめ
紹介したコミュニティサイト開設やアプリの導入・刷新という施策は、新規客開拓ではなくあくまでも既存顧客に向けたものだ。物価高や人口減少などで新規客の獲得が難しくなっているEC業界において、自社顧客への投資を手厚くしロイヤルティを高めていくことを重要視する戦略と言える。
個客との関係性構築を目指すCRM (customer relationship management)施策やロイヤルティマーケティングが必須とされているEC事業だが、こういった取り組みで頭一つ抜けるのはなかなか難しい。トライ&エラーを繰り返しながらも、諦めず長丁場で信頼を積み上げていくことが求められる。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。


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