2025.10.14 通販会社
景品表示法でジャパネットを処分、消費者庁がこだわる「将来価格」
おせち広告が不当表示に当たるとして、消費者庁は9月にジャパネットたかたに対し景品表示法違反に基づく措置命令を出した。2020年公表の「将来の販売価格」にかかわる二重価格表示への執行方針としては、初の処分となる。通販・ECでは一般的な手法のため業界内では行き過ぎとの声も挙がり、ジャパネットたかたも反発している。消費者庁は20年以前にも「将来価格」で度重なるガイドライン策定を行い、措置命令も出すなどこだわりを見せており、今後の動向が注目される。
ジャパネットは適切な表示だったと反発
消費者庁は2025年9月、ジャパネットたかた(以下ジャパネット)が24年に公式サイトで展開したおせちの早期予約キャンペーン広告が、景品表示法の「有利誤認」にあたるとして措置命令を出した。24年7月から11月までの期間限定で、通常価格である2万9,980円の1万円引きとなる1万9,980円で販売。しかし、割引期間終了後には販売しなかったため、もともと通常価格での販売計画はなかったと判断した。2万9,980円という通常の将来価格と比較した消費者に誤認を与える不当な二重価格表示として、有利誤認に該当するとしている。
消費者庁が措置命令の根拠として公表したジャパネットのおせち広告(出典:消費者庁)
これに対しジャパネットは、表示が有利誤認には該当しないと反発し、経緯と自社の見解を発表。まずは消費者庁のガイドラインに沿って「過去の販売価格」を比較対照に用い、キャンペーン直前まで「通常価格29,980円」で販売しており、表示には適切な根拠があったと説明した。
また、22年と23年は同キャンペーン終了後に通常価格で販売し、24年も同様の販売計画だったものの、期間内に完売したためその時点で販売を終了させたとしている。さらに、早期予約キャンペーン終了後に購入できなかったという事実はキャンペーン企画の趣旨に沿ったもので、顧客に誤解を与えていないと主張した。
そのほか、43万個という一括大量仕入れにより値引きが実現できたことや、おせちという商品特性から、廃棄ロス防止に向けて早期予約や需要予測など企業の社会的責任を果たしていることを強調。今後は法的な手続きの場で自社の正当性を主張することも含め適切に対応していくと、訴訟の検討も示唆した。
ジャパネットが見解で示した消費者庁「指摘事項」の概要(出典:ジャパネットたかた)
「将来価格」についてのガイドラインを相次ぎ策定・改訂
今回のジャパネットへの措置命令には業界からも注目が集まっているが、遡ってみると、消費者庁はこれまでも不当な価格表示として「将来価格」に強いこだわりを見せていたことがわかる。
2000年6月に、不当な価格表示について景品表示法上の考え方及び主要な事例を示した「価格表示ガイドライン」を策定・公表。消費者が誤認する表示として、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」を取り上げた。表示された将来の販売価格について、実際に販売することのない価格である時や、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎない時などは、誤認のおそれがあるとしている。
16年4月には改訂した「価格表示ガイドライン」を公表し、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について解説した。まずは00年のガイドラインを踏襲し、表示された将来の販売価格に十分な根拠がない場合は一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあると指摘。将来の価格設定は不確定な需給状況等に応じて変動するため、「よほど確かな場合を除き将来の販売価格を用いた二重価格表示は適切でない」と付け加えた。
ジュピターショップチャンネルに将来の二重価格表示で初の措置命令
「将来価格」についての規制を強めてきた消費者庁はついに2018年3月、「将来の二重価格表示」による違反で、テレビ通販大手のジュピターショップチャンネルに措置命令を出した。将来価格に対する景品表示法違反での処分は初めてということで、業界でも話題となった。
同社はテレビ通販番組内でテレビ2種(以下40型テレビ)とずわいがにの3商品を販売した際に、「セール価格」と、将来の販売価格となる「明日以降」または「期間以降」の価格を併記して紹介。しかし、セール後に「明日以降」や「期間以降」の価格で販売した期間がごく短期間だったため、有利誤認にあたるとの判断だった。セール終了後は2日間または3日間にわたり実際に販売したが、将来の販売価格として十分に根拠があるとは認められなかった。
また、40型テレビについては、他の販売事業者が通常設定できないほど安いように表示したと指摘。実際は、同社の表示価格を下回る価格で同一商品を販売する事業者が当時複数存在していたことも、処分理由として挙がった。
ジュピターショップチャンネルはこの措置命令について、「真摯に受け止め再発防止とコンプライアンス強化に取り組む」とのコメントを発表した。
さらに1年後の19年3月、消費者庁は当該措置命令に基づき、同社に対して1,534万円の課徴金納付を命じた。課徴金の内訳は40型テレビが264万円、ずわいがにが1,270万円で、不当表示によって得た売り上げの3%にあたる。景品表示法への課徴金制度導入は、14年の景品表示法改正を経て2016年4月に導入されていた。
ずわいがにには1,270万円の課徴金が命じられた(出典:消費者庁)
「価格表示ガイドライン」のルールをさらに明確化
消費者庁は2016年策定の「価格表示ガイドライン」を補完するため、さらに20年12月に「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」を公表。将来価格を比較対象価格とする二重価格表示について、「価格表示ガイドライン」で説明していたルールをより明確化した。
将来販売価格について集約されたガイドラインで、消費者庁の本気度が示されている。今回のジャパネットへの措置命令は、この20年の執行方針に基づく初の処分となる。
同執行方針では、将来価格を比較対象価格とする二重価格表示に関して従来の考え方を踏襲し「基本的に行うべきではない」と明記。将来価格表示の基本的なルールをはじめ、有利誤認表示として取り扱われる場合と、それにあたらない場合のそれぞれの事例や、将来価格で販売できない特段の事情などについて示した。
また、一般的には不当表示とはみなさないケースについても説明。まずは事業者から、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータ、将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在することを示す資料の提出があることが前提とした。
さらに、セール期間経過後直ちに将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合は、「ごく短期間」とは考えないとの見解を示した。また、クリスマスケーキや恵方巻、年越しそばなど特定期間に需要が集中する商品の二重価格表示については、当該販売価格の期間が2週間未満であっても、通常は有利誤認表示とみなさないとしている。ただ、おせちもこれら特定期間商品と同類というのが一般認識であり、今回の処分には違和感を覚える。
今後の展開に業界が注目
ジャパネットが今後どういった対応をとるかについては業界が注目しており、同社の見解を見ると裁判も辞さない覚悟に思える。実際に、景品表示法違反とされたのは違法だと事業者が訴えた裁判で、2025年7月に東京地方裁判所がその訴えを認めて措置命令の取り消しを言い渡す画期的な判決があった。
ジャパネットの「有利誤認」とは異なり、商品を著しく優良と誤認させる「優良誤認」に基づく処分ではあるが、景品表示法に関する措置命令を取り消す判決は初めてだった。ただし消費者庁はこの判決を不服として、8月に控訴している。
ジャパネットは25年8月から、26年正月用おせちの販売を開始。品数を過去最多の72品目に増やし、内容もパワーアップして訴求している。11月まで1万9,980円と期間限定の値引き価格で展開し、それ以降は2万9,980円の通常価格になるとしており、昨年と同様の販売手法を用い一歩も引かない姿勢で臨む。
パワーアップした2026年用おせちの販売をスタート(出典:ジャパネットたかた)
まとめ
客観的に見る限り、「過去の販売価格」というルールを守りながら期間限定の商品を企業努力で安く提供し、かつ売り切ろうとしたジャパネットの施策に問題があるとは思えない。商品原価や配送費などの値上がりで収益確保に苦しむ通販・EC業界において、おせちは業界が年に1度活性化するパワー商品だ。消費者も楽しみにしており、今回のケースが消費者被害に結び付く可能性は限りなく低い。
事業者と消費者が納得し合いバランスがとれているこういった市場に冷や水を浴びせるような、今回の消費者庁の処分は理解に苦しむ。事業者の営業活動を意味なく委縮させる執行には慎重な姿勢で臨んで欲しいと、切に願う。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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