2025.09.03 通販支援
10月からポイント付与禁止のふるさと納税、キャンペーンが過熱
総務省の方針で、仲介サイトでのふるさと納税のポイント付与が今年10月から禁止される。このルール見直しを不服として、楽天グループが署名提出や無効を求める訴訟を起こしているものの、このままいけば予定とおりと施行される見込みだ。これを受け、ポータルサイトを運営する仲介事業者は大規模なポイント還元キャンペーンを展開。駆け込み納税を見込み、寄付者の誘導に力を入れている。
総務省が告示改正しルールを変更
総務省は2024年6月、ポイント付与によるふるさと納税の競争過熱を抑制する目的で、仲介事業者による寄付者へのポイント付与を全面的に禁止すると発表した。告示を改正し、2025年10月1日から施行される。
総務省はこれまでもふるさと納税について、返礼品は寄付金額の3割以下にとどめることや、地場産品基準の合致など、さまざまなルールを導入。たび重なる告示改正を実施してきた。ただ、従来の改正はどちらかといえば寄付先の自治体に対するものだったが、今回のポイント付与一律禁止は、まさに仲介サイトを運営するEC企業を直撃することになった。
背景には、各自治体が仲介サイトに支払う手数料が、ポイント付与の原資になっているという総務省の見立てがある。高還元率を競い合うポイント付与を禁止することで、自治体の負担を軽くしたい狙いだ。
撤回を求め楽天グループが署名集めや訴訟提起
ポイント付与を禁止する総務省告示を受け迅速に動いたのが、ポータルサイト「楽天ふるさと納税」を運営する楽天グループだ。告示が出た当日から、本告示に反対する署名集めを開始。2025年3月には、集まった295万2,819件の署名を三木谷浩史社長兼会長が石破総理大臣に提出した。
しかし、その後も総務省には告示見直しなどの動きがなかったため、楽天グループは25年7月に総務省告示の無効確認を求める行政訴訟等を東京地方裁判所に提起。下記のように主に2つの理由を挙げている。
1つ目は、現在のポイント原資は地方自治体に負担を求めず自社で担っており、ポイント付与を禁止しても手数料は下がらないと主張。また、仮にポイント付与競争が過熱したとしても、付与ポイントの割合に上限を設ければ十分抑制できるため、一律に全面禁止する必要はないとしている。また、クレジットカード会社などの決済に伴うポイント付与は引き続き認められることを挙げ、ポータルサイトでの一律全面禁止との整合性に疑問を呈した。
2つ目は、一律全面禁止はポータルサイト事業者に過剰な規制を課すものであり、 ふるさと納税の根拠である地方税法の委任の範囲を超えていると指摘。本来は国会での議論を踏まえた地方税法の改正など、法令によって定められるべき内容のため、総務大臣の裁量権範囲を逸脱しているとした。
仲介サイトが続々と駆け込みキャンペーン
そのような中、各仲介サイトは9月中の駆け込み需要を取り込もうと、リアルイベントやポイントキャンペーンを続々と打ち出している。駆け込み寄付は本来は年末の12月が一般的だが、今年は9月がふるさと納税の駆け込み月になりそうだ。
9月にふるさと納税のリアルイベントを開催するのが、アマゾンと楽天だ。
アマゾンは9月5日~7日に東京ミッドタウンで、全国14の自治体が参加し特産品の試食や試飲、来場者へのプレゼント提供などを行う「Amazonふるさとまつり」を開催。商品の試食や生産者との交流、返礼品選びのサポートをはじめ、パズルやアトラクションなど大人から子どもまで楽しめる催しも用意した。
「Amazonふるさと納税」のサイトでは、ポイントキャンペーンも展開。第1弾として8月末まで最大15%のポイント還元を実施し、9月にも第2弾のキャンペーンを予定している。
9月にも第2弾キャンペーンを予定(出典:アマゾン)
楽天グループはさらに大規模で、9月14日~15日、東京ビッグサイトに全国から170以上の自治体を集めて「楽天超ふるさと納税祭」を開催する。「楽天ふるさと納税」がオープン10周年を迎えたこともあり、過去最大級のふるさと納税イベントとなる。
ふるさと納税の返礼品を実際に手に取って確認できるブースを設置。グルメ返礼品の試食・試飲や、キッチンカーを設けて海鮮や肉など各地域自慢の特産品を実演販売する。寄付方法をレクチャーする「ふるさと納税実践コーナー」や、ファイナンシャルプランナーによるふるさと納税講習会などを通じ、「楽天ふるさと納税」への誘導も図る。
また、「楽天ふるさと納税」のキャンペーンは楽天市場と共通のため、年4回行われる「楽天スーパーセール」が例年通り9月に開催されれば、駆け込みでポイントアップが受けられる。
全国から170以上の自治体が参加(出典:楽天グループ)
アイモバイルが手がける「ふるなび」は、8月末日まで「総力祭」の第1弾として、AmazonポイントやPayPayポイントなどに交換できる「ふるなびコイン」の最大100%還元キャンペーンを展開。さまざまな条件はあるもののインパクトの大きさでアピールしており、9月も同様な形で継続するとみられる。
最大100%還元とのインパクトで訴求(出典:ふるなび)
イオングループが運営する「まいふる」は“制度改革前のラストチャンス”とうたい、9月末日まで最大51%の「WAONポイント」還元で訴求する。対象となるイオンマークのカードでの寄附などが条件ではあるものの、還元率の大きさで駆け込み寄付を狙う。
「ラストチャンス」でアピールする(出典:まいふる)
「Yahoo!ふるさと納税」も、「合計最大72%還元キャンペーン」を実施。9月末日まで「ふるさと納税デビューキャンペーン」「Yahoo!ふるさと納税ジャンボ」を同時開催中で、くじの結果次第で最大72%のPayPayポイントが付与される。「Yahoo!ふるさと納税」での寄付が初めての場合は、さらに優遇されるメリットがある。
初めての寄付はさらにメリットが大きい(出典:LINEヤフー)
各仲介サイトとも還元キャンペーンにはそれぞれ条件があるが、ラストチャンスというお得感を打ち出すことで訴求度アップにつなげる。
「節税・返礼品狙いの年末ルーティン行動」として定着
ふるさと納税の入門者向けサイト「はじめてのふるさと納税」は2025年8月、10月から実施されるポータルサイト経由でのポイント付与禁止に関する意識調査を公表した。「9月までに駆け込み寄付する」との回答は27.4%にとどまり、「急がず12月までに寄付する」との回答が34.0%と上回った。
注目すべきは、「その他」と答えた人が38.6%と最多である点。これは「検討中」「情報を十分に知らない」「ポイントの有無に左右されない」など、さまざまな層が含まれていると考えられるという。
また、「急がず12月までに寄付する」との回答が最も多かったことは、ふるさと納税が「ポイント狙いの制度」ではなく、「年末の節税・返礼品を意識したルーティン行動」として根づいているとの分析だ。こういった回答を見る限り、ポイント合戦は激化しているものの、寄付者は比較的冷静に節税効果や返礼品を見極めようとしているように見える。
まとめ
駆け込みキャンペーンは過熱する一方だが、豪華で魅力的な返礼品が維持される限り、ポイント付与が禁止になってもふるさと納税への意欲は落ちないだろう。現在約1兆2,000億円のふるさと納税市場は、むしろ昨今の物価高による反動もあり、寄付額や寄付者が増加していくのではないか。また、クレジットカード決済によるポイント付与は対象外のため、今後はクレジットカードを軸としたキャンペーンが活発化するとも考えられる。
確かに、総務省による今回の高圧的な告示改正は、仲介サイトにとって納得しにくい内容と言えるだろう。ただ、消耗するポイント合戦から抜け出し、ふるさと納税本来の意義を見出すきっかけとなる可能性もある。配送スピードなど、各仲介サイトが他社との差別化を目指し知恵を絞る好機になるかもしれない。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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