小売業界では2020年前後からショールーミングストアと呼ばれるいわゆる「売らない店」の出店が目立つ。EC企業が期間限定型のポップアップショップを設置し自社商品を陳列する形と、百貨店などが設けた場所に複数のブランドが出店する形の2タイプで展開。いずれも実店舗とWEBを一体化させたOMO戦略を実践しているが、多くのD2C事業者が参加する後者のケースでは新たな施策や進化も見られる。
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機能充実や新店舗オープンなど積極展開
ここ数年で急速に広がっているショールーミングストアは、基本的に店内で商品を販売せずスマホなどを通じて注文する。ネット通販の拡大に伴い、実店舗とECサイトを融合し相互集客を行う「OMO(Online merges with Offline)」マーケティングが広がっており、ショールーミングストアでは不可欠の施策となった。店頭とECで顧客・商品・在庫情報を統一した取り組みで、試着などを通じ実店舗で商品を確認してもらい、ECサイトでの購入を促す。
D2Cブランドの多くは実店舗を保有していないが、一等地にあるショールーミングスペースに出店することで直にユーザーと接したり、自社ブランドをアピールしたりすることが可能だ。スペース提供側の百貨店なども多彩なD2Cブランドを誘致することで話題づくりや活性化につながり、家賃という新たな収入源も生み出せる。
ただ、こういったショールーミングストアも少しずつ変化しつつある。カフェスペースを設けたり、一部商品をその場で購入できたりするなど、ユーザーの声に対応し機能を充実。自動販売機の設置や、新店舗オープンなどにも積極的に取り組む。
「明日見世」は「複合型体験ストア」へとリニューアル
大丸松坂屋百貨店のショールーミングスペース「明日見世」は、24年9月にリニューアルオープンした。大丸東京店の4階から9階へと移設し、広さを4倍に拡大。商品のお試しに加え、買い物、カフェ、インスタレーション、イベントを楽しめる「複合型体験ストア」への進化を図る。
移転後は、期間限定で入れ替わるカフェスペースを新設。累計200を突破した出品ブランドはこれまで約3カ月単位で入れ替えてきたが、今後は6カ月単位のブランドも扱う。さらにブランドと来店客双方の要望に応えて「売らない店」というコンセプトも見直し、一部商品をその場で購入できる機能も加える。
「明日見世」は21年10月にオープン。百貨店と縁が薄いZ世代やミレニアム世代をターゲットに設定し、テーマに沿ってD2Cブランドを入れ替え展開してきた。各店舗には商品サンプルだけを置き、スマホで商品のQRコードを読み込みECサイトから購入・決済を行うOMOの仕組みで運営する。
22年1月には、新たにブランドのブースごとにAI顔認証ソフトを搭載する専用カメラを設置。ユーザーの年齢や性別、滞在時間、立ち止まる位置、時間帯別の来店者数などを算出してデータ化し、ブランドにフィードバックするようにした。
さらに23年3月には「その場で購入したい」という要望に応え、雑貨などの人気商品を搭載した「asumise自動販売機」を導入。キャッシュレス決済に統一しそのまま持ち帰れる形にするなど、さまざまな施策を取り入れてきた。
移設しリニューアルオープンした(出典:大丸松坂屋)
2店舗目のOMOストアに挑む「チューズベースシブヤ」
そごう・西武が21年9月に西武渋谷店に新設した「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」も進化を遂げている。
販売員は置かず商品に値札もないショールーミングストアのため「売らない店」ともいえそうだが、商品の購入が可能だ。実店頭とECを一元化したOMOストアとして、ファッション、コスメ、雑貨、食品など、ほとんど百貨店に登場していない51のD2Cブランドを扱う。
ここで活躍するのもスマホで、商品のQRコードにかざすと価格や商品詳細がアップされるなど販売員の役割を担う。商品をスマホ内の専用ショッピングカートに登録すれば手ぶらのままレジで決済でき、配送か持ち帰りかを選べる。
完全キャッシュレスのパーソナライズドカフェも併設。将来的にはD2C企業の実業家などが集う交流の場を目指すという。
この「チューズベースシブヤ」に続き、2店舗目のOMOストアとして23年9月にそごう千葉店にオープンしたのが、「food edit Chiba」(フード エディット チバ)」だ。“食”に特化し、千葉県内の隠れた逸品やこだわりの商品を中心に新たな食ブランドを取り扱う。
チューズベースシブヤと同様に、店頭商品のQRコードをスマホで読み取って価格や生産者コメントなどをチェック。商品在庫はECサイトと完全連動していて店頭でもECでも購入でき、配送も選べる。
「フード エディット チバ」のオープン前にも、「チューズベースシブヤ」はさまざまな取り組みやブラッシュアップを続けてきた。
22年2月には、「チューズベースシブヤ」のOMO機能を活用した無人販売の期間限定ストアを西武渋谷店に設置。店頭に陳列したバッグやアクセサリーなどのQRコードを読み取ってスマホで購入・決済し、持ち帰りか配送を選択できるようにした。
開業1周年を迎えた22年9月には、専用のショッピングアプリもリリース。従来の店内専用WEBカタログにアプリが加わることで、さらに多様な購買体験の提供につなげるという。
「チューズベースシブヤ」専用のショッピングアプリも開発(出典:そごう・西武)
「シブヤ ベイス」は出店料を無料化
そのほかにも、商品を売る・売らないの違いこそあれ、ショールーミングやOMOを手がけるスペース提供事業ではさまざまな取り組みが見られる。
21年6月、D2Cブランドのリアルなタッチポイントの場として京王電鉄などが商業施設「キラリナ京王吉祥寺」に設けたのが、ショールーミングストアの「INSEL STORE(インゼルストア)」だ。「売らない店」と明確に位置づけ、衣料品やアクセサリーなどのサンプル品のみ陳列。OMO機能を通じ、来店客はECサイトに遷移してサンプルと同じ商品を購入できる。
約20ブースを設置し、出店ブランドは一定の周期で入れ替える。来店客の行動データを取得してフィードバックするため、ブランドはECデータと合わせた分析や活用が可能だ。データ取得に必要な機器類などもすべてパッケージ料金に含まれており、人件費やオペレーションコストの削減をアピールする。
ネットショップ構築サービスを手がける「BASE(ベイス)」は、加盟店を対象に渋谷マルイで提供していた出店スペース「SHIBUYA BASE(シブヤ ベイス)」を、21年6月に渋谷モディにリニューアル移転した。丸井グループと協業し18年からD2Cブランドやネットショップに展開してきたもので、ショールーミング運営をしつつ商品も販売する。
移転に伴い、期間限定で「アパレル・雑貨スペース」出店料の無料化に踏み切った。スペースを拡大し、新たに飲食分野向けの「フードスペース」をオープン。冷蔵・冷凍の商品も販売可能で、基本什器・設備はBASEが用意する。「フードスペース」ではカフェ運営にも着手した。
さらに22年4月には、「フードスペース」の出店料も無料化。無料化が続く「アパレル・雑貨スペース」とともに、費用負担なく出店できるようになった。
なお「シブヤ ベイス」と同じコンセプトで、20年10月にはラフォーレ原宿に「BASE Lab.(ベイス ラボ)」をオープンしている。
「シブヤ ベイス」は出店料を無料化(出典:BASE)
まとめ
このように「ショールーミングストア」や「売らない店」は、オープン時から試行錯誤を繰り返し新たな取り組みに挑んでいる。課題は出店ブランドの売り上げや認知度拡大への貢献だが、短期間の出店で実現させるのはそう簡単ではない。
ただ、「ショールーミングストア」や「売らない店」の運営基盤となる「OMO」機能は、実践を重ねることでノウハウが蓄積されていく。今後は小売業にとって、より高精度のOMO施策が必須となることは間違いなく、こういった場を通じた知見の積み上げは無駄にはならないだろう。
執筆者/渡辺友絵
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