2026.10.09 コラム
アンケートの声に騙されるな。購買×WEB行動データで可視化する優良顧客の実態「ロイヤルクラスタプロジェクト(LCP)」
はじめに:なぜ、良かれと思ったCRM施策が空回りするのか?
ー顧客を理解し、適切なCRM施策を打つー
EC・通販業界をはじめ、多くのデジタルマーケティングの現場で繰り返し言われている言葉です。
しかし、いざ実践に移そうとすると、現場のマーケターは2つの大きな壁にぶつかります。
1つ目は、リソースの壁です。
「すべての顧客に対して、一人ひとりに最適化したメールやコンテンツ、案内を送るなど、現場の人的・時間的リソースを考えれば物理的に不可能だ」という現実です。
2つ目は、顧客データの壁です。
顧客を理解するために「アンケート調査」を行い、その回答に基づいて施策を設計したにもかかわらず、全く成果に結びつかないと、あるいはそもそもアンケートの調査が想像以上の発見につながらないという事態です。
なぜ、顧客の声(アンケート)を反映したはずの施策が空回りしてしまうのでしょうか。
本稿では、ペンシルが提唱する、限られたリソースの中で最大の成果を生み出すための顧客分析・アプローチ手法「ロイヤルクラスタプロジェクト(LCP)」について、具体的な実行プロセスを交えて解説します。
1. 顧客理解の落とし穴:「回答(建前)」と「行動(実態)」の乖離
なぜ、アンケート調査の結果をそのまま信じて施策を打つと失敗するのか。
その理由は、「顧客のアンケート回答(自己申告)」と「実際のWEB上での購買・閲覧行動(実態)」の間には、しばしば大きな乖離が生じるからです。
人間は、アンケートに回答する際、無意識のうちに「建前」や「理想の自分像」、あるいは「その場の気分」を反映させてしまいます。
例えば、サプリメントの定期購入顧客にアンケートを行い、以下のような回答が得られたとします。
「私はこの商品の健康維持における効果をとても実感しており、今後も長く続けたいと思っています」
「企業の信頼性や、臨床データに基づいた確かな品質に惹かれて購入しています」
この「声」だけを信じたマーケターは、次のようなCRM施策を打つでしょう。
「臨床データの詳細なレポートや、成分がいかに身体に良いかを解説した学術的なメルマガ、ブランドヒストリーを語るパンフレットを同梱しよう」
しかし、実際のWEBアクセスログや行動データを詳細に解析してみると、全く異なる事実が浮かび上がることがあります。
たとえば、
• その顧客は、成分解説コンテンツには1秒もアクセスしていない。
• サイト訪問時の大半は、「マイページ」に直行し、「定期情報の配送日変更」を行って、すぐに離脱している。
• メールは「プレゼントキャンペーン」や「お得な優待情報」が記載されたものだけを開封している。
などです。
つまり、アンケートでは「品質や効果を重視する理性的でロイヤルな顧客」という回答(建前)をしていても、実際の行動データが示すのは「特典や利便性、お得さを効率的に利用している実利的な顧客」という実態(真の顧客像)のようなズレが起こり得るのです。
この乖離に気づかず、アンケートの「声」だけに基づいて施策を設計しても、顧客の心には響きません。真の顧客理解には、「アンケートデータ(静的データ)」と「購買・WEB行動データ(動的データ)」を掛け合わせて分析することが不可欠なのです。
2. ロイヤルクラスタプロジェクト(LCP)とは:優良顧客とその見込み群への「一点突破」
限られたリソースの中で最大の売上とLTVを生み出すため、ペンシルが実践しているのが「ロイヤルクラスタプロジェクト(LCP)」です。
LCPとは、全てのお客様は優良顧客になり得るという前提のもと、全顧客を一律に扱うのをやめ、「上位の優良顧客」と「将来優良顧客になる可能性が高い見込み群(ロイヤルポテンシャル層)」をデータに基づいて精密に定義し、そこにリソースを集中させてロイヤル化・ファン化を促進する施策です。
LCPは、以下の「4つのステップ」に沿って実行されます。
STEP 01:優良顧客を定義する
単に「購入金額が多い(高LTV)」というだけでなく、購入回数(リピート)、継続期間、さらにはブランドに対する推奨意向(NPSなど)も含めて、自社にとっての「真の優良顧客」の要件を明確に定義します。
STEP 02:優良顧客をデータで把握する
定義した優良顧客と、それ以外の顧客のデータを、静的データ(アンケート)と動的データ(WEBサイト上の閲覧順、流入経路、アクセス頻度などの行動ログ)の両面から分析し、その実態を定量的に把握します。
STEP 03:優良顧客像の確認・補強をする
得られたデータを基に、優良顧客を価値観やWEB行動特徴の共通性に基づいていくつかの「クラスタ(群)」に分類し、それぞれの解像度を高めます。
STEP 04:優良顧客とその見込み群にロイヤルティを高める施策を実施する
それぞれのクラスタが「何を求めているか(価値観)」と「サイト上でどう動いているか(WEB行動)」に最適化された、パーソナライズされたコミュニケーション施策を実行します。
3. LCPプロジェクトの具体的な進め方
プロジェクトは主に、以下の手順で進みます。
1)優良顧客を「定義する」「分類する」
2)ファンアクションを「想定する」
3)施策優先度を「決定する」
4)全体に対して施策を「実行する」
5)優良顧客と優良顧客見込み群を「観測する」
1)優良顧客を「定義する」「分類する」
【定義する】
あなたの顧客の「優良顧客」の定義は決まっていますか?
優良顧客の線引きは、LTVベースで全体の上位20%が目安です。
近い割合になっているか一度LTVを確認してみましょう。
【分類する】
定義ができたら、該当する優良顧客に紐づく「あらゆる定量データ」を集め、クラスタ分析を行いましょう。
優良顧客がいくつかのクラスタに分かれたら、アンケートのフリーアンサーなどの定性データやレジデント・キャラクターなどの情報を加えてクラスタ像を補強します。
2)ファンアクションを「想定する」
クラスタ像が明確になったら、
「各々のクラスタが自社ブランドのことを今より『いいな!』と感じたとき、どんなアクションを取るだろう?」
「より自社ブランドのファンになってくれたら、どんなアクションを取るだろう?」
ということをテーマにディスカッションをしましょう。
名付けて、ファンアクションの想定です。
このファンアクションは、施策の効果検証に活用します。
ファン育成施策が効果的に働いていれば、ファンアクションが増えると考え、LTV・ファンアクション数(率)の2つの軸で効果を測ることをお勧めします。
あくまで「育成」施策のため、いま現在の優良顧客がたくさん起こしているアクション=増やすべきファンアクションではありません。
今よりもっとファン度が高まったことを測るために、どんなアクションが増えるだろうか、を検討しましょう。
3)施策優先度を「決定する」
【スコアをつける】
各クラスタのファンアクションが想定できたら、ファンアクションとLTVの結びつきの強さやアクションの経験がある/ない人のLTVの差を比較するなどを行いファンアクションごとに点数を振っておきます。
【優先順位を決める】
次に、具体的な育成施策案を検討したら
• より多くのクラスタに響くと考えられるもの
• より強くクラスタに響くと考えられるもの
• 配点の高いファンアクションを引き出しそうなもの
を施策の優先度を高め、実行していきます。
4)優良顧客と優良顧客見込み群を「観測する」
施策の成果を把握するために、クラスタごとに
LTV×ファンアクション点数で人数分布のマトリクス図を作ります。
基本的には、
左下の、LTVが低くファンアクションも少ない層の割合を減らし、
右上の、LTVが高くファンアクションも多い層の割合を増やしていくと
施策の成果が上がったと評価できます。
また、施策を打つ前にこの分布を見ておくと、ボトルネックを発見することができます。
LTVが優良顧客より低く顧客全体より高い 適切なラインで線引きした「優良顧客見込み群」のマトリクスも作成し、同様に変化を見ていくとよりよい結果につながります。
まとめ:「顧客を一律に扱わない」というLCPの絶対ポリシー
ロイヤルクラスタプロジェクト(LCP)のポリシーは、非常にシンプルです。
「顧客を一律に扱わないこと」
そして、
「アンケートの声(建前)だけを盲信せず、WEB行動データ(実態)に基づいて、真のファンにパーソナライズされた納得感を提供すること」
限られたマーケティング予算とリソースの中で成果を最大化するためには、全員に好かれようとする薄い施策をやめ、自社を本当に支えてくれているロイヤル顧客の「解像度」を極限まで高め、そこに集中投資することです。
つまり、とにかく「優良顧客ってどんな人達だろう」を知り抜くプロジェクトと言えます。
あらゆるデータを分析することで浮かび上がるものもあれば、施策を打ってみて、その反応で知る姿もあります。
この機会に、あらゆる枠を超えてじっくりと顧客を見つめてみてはいかがでしょうか。
これまで思いもよらなかった新たな発見があるかもしれません。
次回は、この「顧客理解」の思想を、新規獲得の最大の接点である「LP(ランディングページ)」にどのように応用し、出会いの段階から期待値を適正コントロールしていくのか。ペンシルが開発した「エンゲージメントLP」の実践手法について解説します。
著者:プロフィール
尼崎 祐輔(あまがさき ゆうすけ)
株式会社ペンシル
執行役員CAMO 兼 アダプティブ・マーケティング事業部 ゼネラルマネージャー
2014年新卒入社。プロデューサーとして50社以上のクライアントを担当。入社当初より、BtoBクライアントのSEO研究や導線改善、予約サイトのフルリニューアルなど多様な領域を経験。
2016年、最年少ゼネラルマネージャーに就任。ブランディング向上を目的とするWEB戦略の構築に従事し、2022年よりアダプティブ・マーケティング事業部を立ち上げ、通販サイトの改善、アプリ構築などに領域を拡大し、2026年より執行役員CAMOに就任。
現在は通販サイト・コーポレートサイトを中心に、大手メーカーのWEB戦略全般のコンサルティングを担当。自身が構築してきた「ブランディング×ダイレクトマーケティング」の考え方を軸に、新規獲得からCRMまでを一貫して伴走している。
株式会社ペンシルについて
株式会社ペンシルは、企業のウェブ戦略を成功に導く研究開発型のウェブコンサルティング専門会社です。独自の視点から実験や研究を重ね、研究結果によるノウハウをもとにクライアント企業のウェブサイトを分析し、ウェブからの売上や成約をアップさせるためのコンサルティングを実施しています。ウェブサイトの目的と目標を明確にするコンセプトワークから、アクセス分析、マーケティング、競合調査、企画提案、ウェブサイト制作など、ウェブの入口から出口までを総合的に支援しています。ペンシルは「インターネットの力で世界のビジネスを革新する」を企業理念に掲げ、常に新しいインターネットの可能性に向けて挑戦を続けています。
顧客の「多面性」を捉える次世代マーケティング
顧客体験を向上させるためには、顧客を単に商品やサービスを購入する「消費者」として捉えるだけでは不十分です。
一人の人は、ある場面では消費者であり、別の場面では企業で働く「従業員」や、仕事を探す「求職者」でもあります。こうした一人の人間が持つ複数の立場や企業との関係性を踏まえて体験を設計できるかどうかが、顧客体験向上の成否を左右します。本連載では、この考え方を全3回にわたって、概念から具体的な実践方法まで段階的に解説します。
第1回では、顧客を「多面的な存在」として捉え、さまざまな関係性を踏まえて顧客体験を考えるための基本的な視点をご紹介します。
第1回の記事はこちら
第2回では、アンケートやインタビューなどから得られる定性データと、顧客の行動ログなどの定量データを組み合わせ、顧客との関係を深め、ファンを育てていくためのポイントを解説します。
第3回では、顧客との最初の接点から適切な期待を形成し、信頼につなげるための具体的な方法として、LPをはじめとするWEB接点の設計方法をご紹介します。
実証データも交えながら、顧客と出会った瞬間から信頼関係を築き、継続的なつながりへと発展させていくための考え方とノウハウを、体系的にお届けします。
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