2026.09.25 コラム
撤退止まらぬフードデリバリー、生き残り賭け主要3社の競争が激化
コロナ禍に参入が相次いだフードデリバリーの市場撤退が止まらない。今年に入ってからは3月のWoltに続き9月にはmenuも事業を終了させるなど、黒字化が難しい事業ということが明白になった。Uber Eats、出前館、Rocket Nowの主要3社が過酷な競争を展開することになるが、「配達料・サービス料無料」で勝負するRocket Nowの躍進により、事業のあり方が変革しかねないフェーズに差しかかっている。
市場規模拡大も黒字化が困難なビジネス構造
KDDIは2026年8月、子会社のmenuが提供するフードデリバリー「menu(メニュー)」の提供を終了し、menuを解散および清算すると発表した。競争環境の変化や今後の事業見通しを総合的に検討し、経営資源の最適配分から判断に至ったという。
もともとの構想はフードデリバリーという身近なサービスをau経済圏に導入し、au やau PAY、Pontaという自社の通信、決済、ポイント市場の大規模な顧客基盤と連動。ID連携などを通じ、au経済圏内で顧客を囲い込むことを目指していた。しかし、大きな資金力を持つKDDIでも投資に見合う利益を確保できず、見切りをつけたことになる。
2020年の上陸からわずか6年で撤退に追い込まれたフィンランド発の「Wolt(ウォルト)」も、投資効果面から日本では持続性や規模拡大が困難と判断。優位性がある国や地域に経営資源を集中させるとした。
これら2社以外でも、撤退はかなり早期から始まっていた。ウォルトと同年にサービスを開始したドイツの「foodpanda(フードパンダ)」は、わずか2年足らずの2022年に撤退。米国に本社を置き2021年に日本進出した「DoorDash(ドアダッシュ)」も翌年にはサービスを終了させ、買収先の「ウォルト」に事業を一本化していた。2020年参入の中国系「DiDi Food(ディディフード)」も2022年に日本での事業を終了するなど、各サービスとも参入から撤退までの期間が短かった。
9月末でサービスを終了する(出典:menu)
市場調査会社のサカーナ・ジャパンによれば、デリバリー市場規模はコロナ禍ピークの2020年に前年比50%増の6,271億円と急速拡大。外食などの成長で2024年に一度減少したものの、2025年は前年比2.0%増の8,240億円と予想されている。その一方で撤退が続く背景には、黒字化軌道に乗せるのが困難というビジネス構造があるようだ。
後発の「ロケットナウ」が画期的サービスで顧客とエリアを拡大
各社の撤退が続きビジネスモデルそのものの存続が危ぶまれていたフードデリバリー業界に颯爽と登場したのが、“韓国のアマゾン”といわれるEC企業のCoupang(クーパン)が手がける「Rocket Now(ロケットナウ)」だ。2025年4月に都内の一部地域でサービスを開始。急速に配送エリアを広げ、現在は46都道府県・420都市へと拡大した。
他社と差別化を図る画期的なサービスとして打ち出したのが、全注文での配達料・サービス料の無料化だ。回数制限やサブスクリプション費用もないうえ、本来ならば金額がアップするデリバリー価格を店頭と同じ価格で提供する「お店と同価格」サービスも導入した。チェーン店が中心となる「お店と同価格」の対応店はすでに数万店舗としており、さらなる拡大に力を入れる。
2026年8月にはローソンと連携し、東京都内・神奈川県内・千葉県内の一部のローソン店舗で調理した商品も「ロケットナウアプリ」で注文できる新たなデリバリーサービスに着手。こういったビジネスモデルが功を奏し、2026年9月にはアプリのダウンロード数が累計800万件を突破した。
配達料・サービス料の無料化が奏功しDL数が拡大(出典:ロケットナウ)
薄利でもスケールメリットで長期的に利益を確保
気になるのは、利益が低いビジネスモデルであるにもかかわらず、さらに「配送料0円」「サービス料0円」「サブスク料金なし」「お店と同価格」などのサービスを導入し、採算がとれるのかという点だろう。ただ当然ながら、ロケットナウには勝算がある。
狙いはユーザーメリットを強くアピールすることで認知度を上げ、利用者数や注文回数をできる限り増やすこと。他社と比べて利用者が得するのは明白なため、1注文分の利益が低くてもスケールメリットで市場を刈り取り、長期的に利益を生む設計といえる。
先行投資できる莫大な資金力があればこそともいえるが、今後は収益確保の一環として有料のストア広告展開なども強化していくのではないか。さらに、フードデリバリーを入り口に知名度と顧客基盤を広げ、将来的には自社が手がけるECプラットフォームの日本展開につなげる狙いもありそうだ。
「ウーバーイーツ」はサブスク会員向けに「サービス料」を無料化
生き残りを賭ける競合各社も、黙って見てはいない。業界最大手のUber Eats(ウーバーイーツ)は2026年2月、サブスクリプション「Uber One」の会員を対象に「配達料」「サービス料」ともに回数制限なく無料化する方針を打ち出した。商品代金以外のコストをできる限り抑えることで、注文時の金銭的・心理的なハードルを下げる。
対象となるレストランで1,200円以上、コンビニで1,400円以上、レストラン以外の店舗で 3,000円以上の利用が条件だ。会員はこれまでも配達料が無料だったが、ロケットナウを意識しサービス料も無料化したとみられる。
さらに3月には、商品価格を実店舗と同一価格で提供する「お店と同価格」サービスにも乗り出した。こちらは「Uber One」会員以外も利用できる。対象店舗数は約1万8千店で、さらなる拡大にも意欲をみせている。
「Uber One」という有料会員基盤により一定収入が見込めるため、サービス料無料化などのコスト吸収はある程度可能だが、不安材料もある。7月には「Uber One」の会費改定を行ない、月額498円を698円へ、年額3,998円を5,598円へと値上げした。ウーバー配車サービス利用時のクレジット還元率アップなどを新たな特典に挙げているが、フードデリバリー利用者への恩恵とは言い難く、会員減少につながる可能性も否定できない。
「お店と同じ価格」は「Uber One」会員以外も利用できる(出典:ウーバーイーツ)
「お店価格で出前館」の参加店舗は注文数が平均2.9倍に
出前館も2026年2月から、実店舗と同じ金額でデリバリーできる「お店価格で出前館」を1都3県などでスタートした。1カ月後の3月には全国47都道府県へと拡大し、4月時点で約1万5,000店舗を突破。6月には2万1,000店舗以上となり、そのうち1万6,000店舗以上が全商品を店舗価格で注文できる。
「お店価格で出前館」への参加店舗のオーダー数は参加前後で平均2.9倍に、出前館全体のオーダー数も前月の対2月比で約1.3倍となり、プラットフォーム全体に活性化をもたらしたという。
あわせて3月には、それまで徴収していた「送料」の無料化を終了時期未定で開始。しかし、その一方で従来の料金体系を見直し、新たに「サービス料」を導入した。
これまで「送料」だけだった料金体系を「サービス料+送料」の2段階へと変更し、当面は「送料」の無料化を続ける方針。新たに導入した「サービス料」は商品価格に応じて変動し、支払い金額は注文手続き画面で確認する。また、現金支払いの場合には別途110円の手数料が発生する。
「お店価格で出前館」や「送料無料」は、これまでと同様に無料アプリで会員登録を済ませていれば利用できる。有料サブスクリプションサービスの仕組みはないため、会員ならば誰でも対象になる。
ただ、送料は無料になったがいつまで続くかは未定であり、これまではなかった「サービス料」を導入しコスト調整を行っている。価格に敏感な会員がこれらコスト負担を天秤にかけ、送料無料が終了した時点で離れて行ってしまう可能性もある。
参加店舗の注文数は導入前の3倍近くまで増加と活性化(出典:出前館)
まとめ
後追いは否めないものの、ロケットナウの参入をきっかけに他2社もデリバリーの最大障壁だった“割高感”の解消に本腰を入れ始めた。今後は注文回数を増やしグロスで利益を考えること、生活に不可欠なインフラへと成長させることを実践していく必要がある。
来年4月からは食料品消費税の1%減税に伴い、外食チェーンなどがテイクアウトやデリバリーを強化するだろう。フードデリバリー各社には正念場となるが、慌てて消耗戦を繰り広げるのではなく、将来的な市場成長や構造変換などに目を向けることが重要だ。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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