2026.11.06 コラム
有店舗アパレルEC企業の新たな挑戦、M&Aや事業多角化を推進
実店舗を中心にECも展開するアパレル各社が、新たにビジネスモデル見直しに挑んでいる。ホールディングス化や積極的なM&Aに乗り出し、グループ経営の高度化や既存事業のさらなる成長、コスメや飲食など事業領域の拡大や多角化を進める。各社ともECの売上高やシェアが伸びており、新たな取り組みにも重要な役割を果たすとみられる。
背景にあるアパレル業界を取り巻く課題
各社が新たな取り組みに踏み出す背景には、国内アパレル市場を取り巻くさまざまな課題がある。
アパレル業界では「オーバーストア・ブランドの供給過剰」が長期間続いてきたため、店舗やECサイト、物流、システム、在庫などが重複しコストを押し上げている。グローバルSPAの寡占化やD2Cなどの新興勢力が大きく台頭する中で、国内人口減少や円安・インフレによるコスト上昇に対処していくことは困難を極める。さらに、大量生産・大量値引き・大量廃棄といった従来型モデルは環境負荷も高いことから、持続性が限界を迎えつつある。
こういった課題の解決に向け、各社はM&Aやホールディングス化、グループ内の協業などを通じてスケールメリット追求や競争力強化に取り組み、コスト最適化を目指す。加えて、アパレル以外の事業領域への進出や多角化経営にもつなげる考えだ。
ワールドとTSIが経営統合、補完し合いスケールメリット狙う
ワールドとTSIホールディングス(TSI HD)は2026年10月、共同株式移転による経営統合に合意したと発表した。2027年3月に共同持株会社のインフィニティ・ユナイテッドを設け、両社は完全子会社として傘下入りする。持株会社の株式移転比率はワールド1に対し、TSI HDが0.8となる。
両社のブランドポートフォリオは顧客層、販路、商材・価格などがほとんど重複せず、事業の相互補完が可能と判断。それぞれの異なる特長を持ち寄ることで、より大きなシナジーやスケールメリットを発揮できるとしている。
ワールドは2026年8月に発行した「統合報告書2026」の中で、3月に始まった中期経営計画「VISION-W」を踏まえ、10年構想の売上収益1兆円に向けたロードマップを紹介。「M&A」「IP・アライアンス」「海外」という成長エンジンを示し、「M&A」では10月にタオルなどライフスタイル製品の企画・卸・販売を手がける企業の事業承継を発表した。
TSI HDは10月開催の2027年2月期上期決算説明会で、カジュアル・スポーツ・アウトドアウエアなどを扱うOMOプラットフォーマーのデイトナ・インターナショナルなど2社のM&Aが寄与し、売上高は前年同期比34%増になったと発表した。4月には「スカジャン」などものづくりのクオリティに定評がある東洋エンタープライズの買収を発表するなどM&Aを強化しており、グループとのシナジー効果を見込む。
アダストリアは「and ST」をモール化、参加ショップ増加し商材も拡大
アダストリアもマルチカンパニーを目指して2025年9月からホールディングス体制に移行し、アンドエスティホールディングスとなった。それまでも飲食業のゼットンや雑貨業のトゥデイズスペシャル、アウトドアブランドのカリマーインターナショナルなどのM&Aにより、事業領域を拡大してきた。
2024年10月には「and ST」をモール型プラットフォームとして外部企業向けにオープン化し、商材をコスメやインナーなどに拡大。2030年には1,000億円の流通総額を見込む。
2026年9月に発表した2027年2月期上期決算で、「and ST」の流通総額(GMV)は前年同期比10.9%増の248億円と順調に推移した。自社グループ販売は同4.0%増の210億円、グループ外販売は同77.7%増の37億円だった。グループ外販売が大幅増だったのは参加ショップ数が増えたためで、前年同期より45ショップ増加し82ショップとなった。
M&Aにも注力し、6月には韓国を中心にアジアンファッション越境ECモール「60%」を運営するシックスティーパーセントの株式68%を取得し子会社化した。「60%」はアジア各国の気鋭のストリートブランドを中心に2,700以上のブランドが集結しており、10代〜20代の若年層からの支持が高い。最先端のアジアンファッションを取り込むことで、推進するマルチブランド展開と「and ST」のプラットフォーム戦略をより加速させる。
さらに異業種のセブン‐イレブン・ジャパンともタッグを組み、9月から全国のセブン‐イレブン店舗でソックスやスエット、Tシャツ、エコバッグなどの発売を始めた。「ハローキティ」をはじめ人気キャラクターとのコラボアイテムも展開。20〜40代の女性客や若年層を中心に、日常に寄り添う新たなファッション体験を提供する。
アジアンファッションのシックスティーパーセントを買収(出典:アンドエスティHD)
ホールディングス化したユナイテッドアローズは飲食事業に本腰
ユナイテッドアローズは、2026年10月に「TABAYAホールディングス(HD)」へと商号変更し、持株会社体制へ移行した。ホールディングス化により、M&Aの推進やグループ経営の高度化、ガバナンスの強化などに取り組む。ユナイテッドアローズの商号は変わらず、TABAYA HD傘下の事業会社となった。
<新たなグループ企業体制>
「TABAYAホールディングス」へ商号を変更した(出典:ユナイテッドアローズ)
ユナイテッドアローズは2026年5月に「新中期経営計画2026~2028」を発表し、「既存事業の進化」と「新領域の開拓」を両輪に持続的な成長を目指すとした。事業の多角化とグローバル化に向け、ホールディングス化を機に異業種および海外への挑戦を進める。“高感度で高付加価値”をコンセプトとして、M&Aや共同出資などを検討していく。
インフレ環境下で中高価格帯マーケットの成長が期待されているため、アパレルは自社の強みを生かせる中高価格帯に特化して経営資源を集中させる。ライフスタイル事業をはじめ、自社と異なるテイストのアパレル事業の獲得、ブランドの拡充を目的としたM&Aを積極的に推進。さらに、旅行、レジャー、外食などへの支出意欲が高い30~40代女性をターゲットの軸に据え、新たな事業領域を構築する。
すでに積極的なM&Aに乗り出しており、2026年1月にはウィメンズデザイナーズブランド「テルマ(TELMA)」の事業を取得し、新子会社のTELMAを設立。7月には、遊び心と上質さを合わせ持つジュエリーブランド「Bijou de M(ビジュードエム)」の株式を譲受した。
さらに10月にはTABAYA HDが、食やアート、音楽、イベントなど幅広いライフスタイルを提案するトランジットホールディングスと合弁会社TABAYA TRANSITを設立した。ライフスタイル領域における新規事業開発に加え、飲食事業の運営や展開を担うことを目的とする。
「新中期経営計画2026~2028」ではアパレル領域にとどまらない事業領域の拡大を掲げており、中でも飲食は豊かなライフスタイル提案の実現に向けて欠かせない事業領域と位置付けている。トランジットホールディングスは、国内外のカフェ・レストランを展開するなど飲食事業で高い企画力と運営ノウハウを有しており、飲食ジャンルにおいて両社の強みと経営資源を最大限に活用することで新たな顧客接点の創出を狙う。
ジュエリーブランド「ビジュードエム」も傘下に(出典:TABAYAホールディングス)
まとめ
店舗とECを手がけるアパレル企業は、これまでのOMO施策が一段落したこともあり、M&Aなどを通じてライフスタイル領域や周辺サービスの拡張に乗り出した。課題が多く、業界を取り巻く環境は厳しいが、多角化に向けた取り組みや事業拡大を見据えた再編はまだまだ続くとみられる。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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