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2024.01.10 コラム

新規事業としてECを立ち上げるときに陥りがちな「罠」とその「対策」

コロナ禍で消費者とのリアルな接点が失われた中、様々な企業がECを活用し、ECシフトが急速に進みました。

卸売・小売業に対して商品を流通させるBtoB商流を主としてきた消費財メーカーも「ECを活用し、消費者への直接販売を強化する」といった流れは、もはや当たり前となっています。

しかし、既存のBtoB商流での事業が確立していればいるほど、事業運営スピードやケイパビリティが全く異なるEC事業の難易度は上がります。

なぜなら、ECを始めたとしても、既存ビジネスの価値観や業務プロセスから大きな“重力”を受け、本来は企業全体で重要な役割を担うべきEC事業が傍流として扱われ、投資や人員配置において軽視される“遠心力”も働くからです。

そこで本稿では、数多くのEC事業の立ち上げやテコ入れを支援してきた筆者の経験から、新たにEC事業を立ち上げ、再成長を目指す事業者にとって、陥りがちな4つの「罠」とその「対策」について説明します。

ECに限らず新規事業全般にも通用する内容となっていますので、参考にしてみてください。

1.ミッションに関する罠:EC事業の位置づけが不明確かつ膨張による失敗

経営・EC部門トップだけではなく、EC部門外の社員にも腹落ちが必須

本格的にEC事業を始めるとなれば、まとまった規模の投資や人材が必要です。経営トップやEC部門トップの強力なコミットは当然ながら外すことはできません。

ただし、それだけではまだ不十分です。ECが新しく取り組む事業だとしても、これまで確立してきた既存事業の資産を活用する場面は多く、既存事業側との連携が発生する度に摩擦が生まれるようでは、推進力を大きく損なってしまいます。

EC事業が自社の未来にとって、真に必要で積極的に協力するべき存在だという認識を、既存事業側にも深く持ってもらわなければなりません。

そのためには、既存事業の成長ポテンシャルの限界を明確に認識し、EC拡大の必要性を、経営はもちろんミドルクラス以上(可能であれば全社員)がしっかりと腹落ちしていることが必要不可欠です。このことをトップ自らが、粘り強く伝えていくことも重要です。

EC部門のミッションを拡大しすぎず、まずは立ち上げにフォーカス

新たにEC事業に進出する事業者は、既存事業の停滞を打開といった期待が先行するあまり、全社ブランディングや新商品開発、SNSマーケティングなど、初期から様々なミッションを担わされる場面も多いです。

結果として取り組みが散漫になり、中途半端な成果しか生み出すことができず、その後、成果の低さから「EC事業は失敗だった」という烙印を押されてしまいます。

EC事業はこれまでのビジネスと大きく異なるものなので、片手間で成功できるものではないのです。

まずは、着手する領域を絞り込み、初めから風呂敷を広くし過ぎないことが重要です。ECで想定される競合を理解したうえで、既存事業では取り込めなかった顧客層のどのようなニーズに対してアプローチするのか、自社商品をどのようにポジショニングし、何を訴求ポイントとしていくのかを明確にしてきましょう。

そして一度スタートした後は、しばらくはオペレーションの定着・磨きこみに集中し、小さくとも早期での成功体験をつくり上げることに注力すべきです。

2.事業運営に関する罠:既存事業とのスピード差による失敗

数値計画はSKU×数量単位まで分解し、高頻度なPDCAにより磨きこんでいく

次に、事業運営をするうえでの、数値計画とそれを実現するための施策について説明します。

数値計画は、SKU単位で積み上げて作成しましょう。そうすることで、現状の売上と当初の計画が、どの商品によって乖離しているのかを特定し、具体的な改善施策を打つことができます。

計画時だけでなく、日々の売上変動を踏まえて素早く現状把握し、改善プランが打てるように、常に具体的な売上数字が見られる環境を整える必要があります。

既存のBtoB事業とはスピード感が大きく異なるため、場合によっては適切な管理ツールが必要となります。素早く現状把握をしたあとは、乖離のある商品をテコ入れします。

ただし、日々変動する売上に振り回され、表面的な施策を重ねるだけでは本質的な改善は見込めません

まずは、原因を仮説として出し、その仮説に基づいて施策を打ち、成果が出なかったらすぐに改めて考える、という仮説ベースでの高速PDCAサイクルを回す思考・行動プロセスに習熟していく必要があります。

例えば「肝いりの新商品を上市したが、期待通りの売上に届かない」という場面を想定してみましょう。

はじめに、ボトルネックになっている部分について課題・仮説を立てます。認知がされていない、訴求ポイントが伝わってない、価格競争力が弱いなど、様々な要因が考えられますが、改善が必要な順に、仮説を立て検証していきます。

認知の部分であれば、適切な量・質で広告出稿がなされているか、トップページからの導線はわかりやすいものになっているか、訴求ポイントは、しっかりと言語化されていて、一見してわかる形にビジュアル化されているか。また、価格については、競合商品がキャンペーンも含めどのような値付けをしており、自社商品は魅力的な価格提示となっているかなど、検証を経て具体的になった課題に対してもさらに仮説を立て、データとにらみあいつつ、効果の確認をしていきます。

BtoBビジネスと違い、ECにおいては、ECサイト内での消費者の動きや、競合の取り組みがリアルタイムで把握できます。それらのデータをスピーディーに施策に反映していくというのがECの戦い方なのです。

このように素早く施策を打つ中で、商品の生産が既存のBtoB向けのリードタイムでは対応しきれなくなることが、季節性の高い商材、例えばアパレルなどでは顕著に表れます。

EC事業からは、BtoB事業における卸向けの商談会に合わせた新商品発表、生産計画策定などの需給調整プロセスを分離・独立させ、EC向け独自の柔軟な生産計画が立てられるようにすべきです。

既存の物流が柔軟性に欠ける場合はフルフィルメントサービスの活用が有効

求められるスピードに対応できないという意味では、物流も同じです。

BtoB向けメーカーの場合、大ロット小頻度配送に最適化されてしまっていることが多々あります。

ECをはじめた初期段階は規模が小さいことから、既存の物流システムの中で何とかやりくりしようと考えるのではなく、ECモール事業者や物流事業者が運営しているフルフィルメントサービスを積極的に利用しましょう。

これらサービスは、速達性に優れるという点でも重要です。ECにおいては、注文から2日以内に届かない場合、30%もの機会損失が発生します(当社調べ)。

もし、EC事業規模が一定以上になった場合は、自社でEC専用の物流設備を持つ選択肢も視野に入れましょう。

3.マーケティングに関する罠:卸・店舗にお任せ発想がもたらす失敗

商品のアピールはしつこいくらいに

マーケティングについて、まず強く意識していただきたいのは、ECにおいては商品の訴求ポイントを明確にして、徹底的に言語化・可視化することです。

実店舗では棚にある数種類の商品から選ぶのに対して、ECでは桁違いに多くの選択肢の中から商品を選ぶことになるため、明確な提供価値が一目見てわかる状態にしなければなりません。訴求はしつこいくらいがちょうど良いのです。

店頭では、パッケージ自体が商品訴求のメディアとなりますが、EC上では関係ありません。アイキャッチとなるキーフレーズやキービジュアルと併せて、ユーザー視点での価値をしっかりとコンテンツに落とし込むことが有効です。

立ち上げ期の広告投資は惜しまない

初期段階においてこそ、豊富な広告投資が重要です。選択肢が多いECでは口コミ/レビューが消費者にとって、重要な判断材料であり、レビュー数が少なすぎる場合は、検討対象から外されかねません。

販売開始後になるべく早く、一定数のレビュー獲得を目指し、初期から広告投資していくことで、それが認知や口コミとなり、将来の売上をつくっていきます。

費用の発生する広告投資だけでなく、今後のロイヤルティ向上、LTV向上に向けて、自社サイトや商品ページを通じてのブランドストーリーの構築も必要です。

自社で製品を製造しているメーカーの場合は、それだけで他社製品を仕入れている出品者と差別化できます。

勝手に「ブランドストーリーを構築するほどの製品をつくれていない」と決めつけてしまうパターンも見られますが、メーカー直売であるというメリットを改めて訴求し直しましょう。

4.人材・体制に関する罠:自社にノウハウ・人材が残らない事による失敗

外部人材は積極的に活用しつつ、ノウハウを自社にシフトさせるマネジメントを

EC運営のノウハウを持つ人材確保においては、社内で確保できない場合、外部人材も積極的に活用すべきです。

ただし、EC関連の人材は一般的に一社への在職期間が短く、流動性が高いため、ノウハウを属人化やブラックボックス化させず、なるべく自社組織にノウハウを蓄積させることを意識しましょう。

例えば、優秀な人材を自社の若手社員と一緒に行動させ、若手に業務をシャドーイングさせることも有効な手段のひとつです。

優秀な人材確保には、魅力的な職場環境やインセンティブ設計をする

EC人材は流動性が高い一方で、引く手あまたとも言え、働きやすい環境を整えなければ優秀な人材の確保は難しいです。

例えば、出社義務の緩和、労働時間の柔軟化など、わかりやすく取り組める点です。場合によっては、雇用方法、給与体系も見直し、正社員契約社員問わず、優秀人材に見合う水準の給与を提供することも必要となります。

給与の中でも特にインセンティブ設計は入社後のモチベーションにも影響を与えます。 EC事業は努力が成果に連動しやすいビジネスゆえに、成果連動部分を既存事業より大きくすることも考えましょう。

既存事業側においてもEC事業への貢献を評価するインセンティブ設計を組み込めば、社内連携の円滑化も促進されます。

ここまでお伝えしてきたそれぞれのポイントは、一朝一夕で解決できるものではありません。

しかしながら、解決に向けた方向性は明確です。もしひとつでも心当たりがある場合は、決して放置せず、少しでも改善に向けて取り組んでいきましょう。


著者プロフィール: 株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野寺智史
慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、大手通信企業、外資系コンサルティングファーム、人材開発ベンチャーを経てローランド・ベルガーに参画。消費財、小売、インターネットプラットフォーマーを中心に、マーケティング戦略策定、DX推進、組織構造改革の領域において多くのコンサルティング経験を有する。大規模企業のみならず、急成長ベンチャーに対する支援実績も豊富。

著者プロフィール: 株式会社ローランド・ベルガー コンサルタント ベトレム ジャスティン龍摩
京都大学経済学部卒業後、リクルート、サイバーエージェントを経てローランド・ベルガーに参画。広告業界における広告出稿の提案営業、経営企画の業務経験を活かし、事業会社のEC戦略、広告・マーケティング戦略等の策定に携わる。


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