2026.10.09 通販支援
ふだんは値上げのほうが多い。値下げが上回るのは、セールのときだけ
連載「AIに選ばれる商品 ― 実測データで読む」第2回
楽天市場のランキング掲載商品の価格を、毎日1回、同じ時刻に記録しています。2026年9月の楽天スーパーセールをはさんで、同じ3日間の窓で平常時・セール中・セール後を比べたところ、価格が動いた商品はセール中で7.09%、平常時で3.19%でした。そして平常時は、値下げよりも値上げのほうが多い。「セールはみんなが値下げする時期」という前提が、まず事実と違っていました。第2回は、148,560商品の実測から、セールの値付けが平常時と何が違うのかを示します。
1. 何を測ったか
楽天市場のジャンル別ランキングに掲載された商品を、毎日1回、朝6時台に記録しています。対象は約3,300ジャンル。母数は、2026年9月3日と9月6日の両日に本体価格が存在した148,560商品です。毎日同じ時刻に記録しているのは、価格が1日の中でも動くためです。朝に見た価格と夜に見た価格が違えば、それが店舗の判断なのか観測のタイミングなのかが分からなくなります。
価格は本体価格(最小SKU価格)を使いました。ポイントを含む実質価格は使っていません。店舗が設定するポイント料率を取得できているのが5.8%にとどまり、日次で比べると取得状況の変動がそのまま「値下げ」に見えてしまうためです。同じ理由で「何%OFF」も出せません。参考価格が入っているのは14.7%で、割引率は計算できない。クーポンはデータに項目自体がありません。代表値はすべて中央値です。平均は1件の極端な値で動きます。
2つ断っておきます。ひとつは、記録対象のジャンルに偏りがあり、「食品」「ファッション」の第一階層はほぼ含まれないこと。もうひとつは、すべて商品ベースの数字であることです。1つの店舗が複数の商品を持つため、「何%の店が」とは言えません。
2. セールでも、93%の商品は1円も動いていない
9月3日から6日にかけて、本体価格を下げた商品は4.99%(7,407商品)、上げた商品は2.10%(3,124商品)でした。残る92.9%は1円も動いていません。
「セール中は価格が激しく動く」という前提で競合を見ていると、この数字は意外に映るはずです。動いているのは一部で、大半の棚は止まっています。
毎日手で競合を確認している方であれば、この比率は作業量に置き換えて読めます。200商品を追っているとして、この3日間で実際に価格が変わったのは14商品ほど。残りの186商品は、変わっていないことを確かめるために見ていたことになります。そして、その14商品がどれなのかは、事前には分かりません。
3. 動いた商品は、中途半端に下げていない
下げた7,407商品の下げ幅は、中央値で−9.35%でした。3,380円の商品を220円引きにした、という水準です。
ただしこの数字を細かく読むことはできません。下げ幅は10%・20%といったきりのいい値に吸着していて、−6.6%と−6.9%のような差に意味はない。読むべきは「動いた商品は、1割前後をまとめて下げている」という水準感のほうです。
4. ふだんは、値上げのほうが多い
同じ3日間の窓で、平常時(8月28日→31日)とセール後(9月12日→15日)も測りました。
図表① 平常時・セール中・セール後の比較
セール中に増えているのは値下げだけです。1.42%から4.99%へ。いっぽう値上げは1.77%→2.10%→2.07%と、ほとんど変わっていません。
そして平常時は、値下げ1.42%に対して値上げ1.77%。ふだんは値上げのほうがやや多く、値下げが値上げを上回るのはセールのときだけでした。
ここは実務に直結します。競合の値上げを見つけたときに「セールが終わったから戻したのだろう」と解釈すると、読み違えます。値上げはセールとは関係なく、年間を通じて起き続けているからです。
なぜ平常時に値上げのほうが多いのかは、この記録からは分かりません。仕入れなのか、在庫なのか、送料込み価格の調整なのか、価格の動きだけを見ていても理由は出てきません。ただ、平常時のモール内で起きていることは、値下げ競争というより値上げの積み重ねである——という事実のほうは、そのまま受け取ってよいはずです。
もうひとつ。平常時でも、3日で3.19%の商品が価格を動かしています。セール期間だけ競合を見ていると、この分は丸ごと視界に入りません。
5. カテゴリで見ても、差は3.6倍しかない
セール中に下げた4.99%を、楽天の第一階層まで遡って分類し直しました(未分類ゼロ)。
図表② 第一階層21カテゴリの値下げ実施率
いちばん動くのはスマートフォン・タブレットで9.3%、いちばん動かないのはテレビゲームで2.6%。差は3.6倍です。上位には美容・コスメ・香水(7.9%)やダイエット・健康(6.7%)、家電(6.1%)が並び、下位には日用品雑貨・文房具・手芸(2.8%)やキッチン用品・食器・調理器具(3.1%)が来ます。
「うちの業界は値下げ競争が激しいから」という感覚は、カテゴリ単位で見るかぎり、思ったほど裏づけられません。
ただし、カテゴリ平均を自分の商材の代わりに使うことはできません。カテゴリ平均の±30%以内に収まる商材は、58商材のうち45%しかありません。たとえばバスタオルの実施率は8.3%(27商品)で、これが属する日用品雑貨・文房具・手芸の平均2.8%に対して約3倍です。自分の商材で確かめるしかありません。
6. 実務への持ち帰り
1. 「みんな下げている」を前提にしない。実際に動くのは7%。ふだんは3%で、値上げのほうが多い
2. 自分の商材の実施率を、カテゴリ平均で代用しない。カテゴリ平均の±30%以内に収まる商材は45%しかない
3. 「セール中に見えた値下げ」と「平常価格の変化」を分けて記録する。混ぜると、一時的な価格に追随して自分だけ下げたままになる
まとめ
セール中に見るべきものは「いま何社が、どれだけ下げているか」。セールが終わってから見るべきものは「誰が戻さなかったか」。見る対象が変わるだけで、どちらも毎日追っていないと分かりません。価格は、過去に遡って調べることができないからです。
今回、セール中に値下げした7,407商品が、その後どうなったのかも日次で追跡しました。その結果は資料にまとめています。
記事末・関連資料
▼本稿の図表に加え、値下げした7,407商品の追跡結果、カテゴリの中身(美容・水/ソフトドリンク・医薬品)、値下げと楽天ランキングの関係を収録した資料(無料ダウンロード)
筆者プロフィール
株式会社リスマ 代表取締役 木村 洋介
三越伊勢丹、KDDI(モールEC運営)を経て2021年に株式会社リスマを創業。競合価格・検索順位・在庫を国内外のサイトから毎日自動収集するECリサーチAI「Smapra」を提供し、EC事業者の値付け・品揃え・改善の意思決定を支援している。
https://smapra.com
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