2026.10.21 コラム
「カスハラ対策」が10月から義務化!課題やEC事業者の対応は
10月から、すべての事業者にカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止対策が義務付けられた。中でも電話やメール、SNSといった多様な顧客接点を持つ通販・EC事業者には、社内体制の構築や従業員への周知徹底が不可欠だ。ただ、義務化は認知しているものの対応が追い付いていない事業者も相当数あるとみられ、早期の対応が求められる。
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」は全てカスハラ
「改正労働施策総合推進法」の施行により、2026年10月1日からカスハラへの対策が全事業者に義務化された。厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント」の定義は、顧客や取引先、施設利用者などから労働者への「社会通念上許容される範囲を超えた言動」であり、結果的に「労働者の就業環境が害される」もの。対面や電話だけでなく、メール、チャット、SNSなどインターネット上で行われるケースも含む。
社会通念上許容される範囲を超えた「言動」の例としては、商品・サービスと無関係な要求といった想定内のサービスを著しく超える要求や、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求などとする。
同様に「手段や態様」の例としては、暴行・傷害などの身体的な攻撃や、脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座強要などの精神的な攻撃、威圧的・継続的・執拗な言動、不退去・居座り・監禁などの拘束的な言動を挙げる。
事業主に義務付けられた5項目のカスハラ対策
カスハラ防止のために事業者が必ず講じなくてはならない措置は、以下の5項目となる。
1. カスハラ対策方針の明確化と従業員への周知・啓発
毅然とした態度による対応で従業員を保護する方針を明確化し、その内容と定めた対処方法を社内に周知する。対処方法としては、管理監督者への対応方針の確認、可能な限り従業員を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部との情報共有などとなる。
2. 相談体制の整備
相談窓口をあらかじめ定めて従業員に周知し、窓口担当者が適切に対応できるように体制を整備する。
3. 事後の迅速かつ適切な対応
カスハラの事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者に配慮した措置を行うとともに再発防止に向けた対策を講ずる。
4. 悪質なカスハラ抑止に向けた対処体制の整備
特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて従業員に周知し、対処できる体制を整備する。
5. プライバシー保護と不利益な扱いの禁止
相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その内容を従業員に周知。相談したことにより不利益な扱いをされないと定め、周知・啓発する。
そのほか、自社の従業員が取引先など他社の従業員に対しカスハラを行った場合、先方の事業主から事実確認について協力を求められた場合は応じるよう努める必要がある。
5項目のカスハラ対策が全事業者に義務化された(出典:厚生労働省)
JADMAやCCAJなど事業者団体も指針や認定制度を公開
厚生労働省によるカスハラ対策への取り組みを受け、通販やECに関連する業界団体も動いている。
日本通信販売協会(JADMA)は2025年5月、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定。会員企業をはじめ、消費者、行政機関、関連組織・団体、非会員の通販売業などを「顧客等」と定義し、対応方針を定めることにした。
協会活動の推進力の1つである行政機関、関連組織・団体との連携や情報交換といった活動の中で、ごく一部ではあるが協会への心ない言動や不当な行為が見受けられると指摘。基本方針を定めることで、職員が業務に邁進しやすい環境整備や「顧客等」とより良い関係を築くことを目指す。JADMA内には消費者や事業者からの相談窓口である「通販110番」も設置しているため、カスハラ対策は重要と言えそうだ。
基本方針として、カスハラに該当すると判断した際は毅然として対応するほか、対応を断ることもあるとし、悪質な場合は警察や弁護士等に相談のうえ対処する。方針を職員や外部に周知してカスハラ研修も行い、発生時の体制整備や具体的な対処方法および手順も整える。
コールセンター事業者で構成する日本コンタクトセンター協会(CCAJ)は2024年度からカスハラ対策に本格的に取り組み、実態把握のために会員企業50社・従業員約2,500名にアンケートを実施。回答結果を踏まえ、2025年3月に「カスハラ対策ガイドライン」を策定・公開した。
さらに2025年10月から、「カスハラ対策推進企業認定制度」を始めた。カスハラ対策に主体的に取り組むコンタクトセンター事業者を認定する新制度で、審査を経て理事会が承認。認定企業は協会ホームページに掲出され、自社サイトや名刺などで認定マークを告知できる。現在、42社が認定されている。
アンケート調査結果によれば、コールセンターにおけるカスハラの類型は「暴言・怒声」が68%と最多で、カスハラを受けた従業員の約6割が「強いストレスを感じた」と回答。カスハラの理由は顧客の「無理な要求」が71%、「勘違い」が50%となる。一方、「従業員の接客態度・言葉遣い」「商品サービスの欠陥等」なども約3割を占め、事業者の努力や改善である程度抑止できる可能性もあるという。
認定企業は自社サイトなどにマークを掲出できる(出典:日本コンタクトセンター協会)
認知はしていても相当数の事業者が未対応
ただ、未だに対応が進んでいない事業者も多い。
企業・団体の顧客対応部門責任者などで構成する消費者関連専門家会議(ACAP)が2026年9月に公表した会員企業のカスハラ対応状況をみると、96.7%が「認知している」と回答した一方で、「認知しているが対応できていない」との企業・団体が 29.4%と約3割にのぼった。
カスハラ対応の不安や課題では、「正当な苦情・意見とカスハラの区別」や「現場担当者への教育」、「判断基準の作成」などが挙がり、現場での「運用」「判断」が重要課題となっている。
<会員事業者の「カスハラ」対応状況結果>
約3割が「対応できていない」と回答(出典:ACAP)
また、2025年4月から「カスハラ防止条例」を施行している東京都が2026年3月に公表した調査では、カスハラ防止対策に「取り組んでいる」と回答した企業は38.5%にとどまった。取り組み内容は「相談窓口の整備」が65.7%と最も高く、「実態把握のための調査」が52.9%、「従業員のケア」が50.9%と続いた。
「取り組んでいない」と回答した企業に理由を聞いた結果、「正当なクレームとの判断の難しさ」が29.6%と最も高く、「ノウハウ不足」が23.8%、「発生状況の把握が困難」が16.7%と続いた。
EC業界では有店舗の化粧品やアパレル企業が積極的に導入
厚生労働省の動きを受け、通販・EC業界でも2024年頃から「カスハラにへの対策・方針」を掲げる企業が増え始めた。中でも目立つのは化粧品企業で、2024年7月のファンケルをはじめオルビスやポーラ、コーセー、ランクアップなどが次々に公表。2025年に入ってからは、メンズコスメを手がけるD2C事業者のパルクオムも指針を公開した。資生堂のように2024年10月に初めて導入し、さらに2026年の8月、10月と改訂を重ねたケースもある。
こういった化粧品企業は通販・EC以外に多くの実店舗も運営しており、対面での接客にはカスハラ対策が不可欠となる。常設店がない企業も期間限定のポップアップショップを展開するためリアル接客が欠かせず、指針は従業員保護に重要な役割を果たすといえよう。
同様に、実店舗を持つアパレルEC企業でもカスハラ指針の公表が目立つ。アダストリアやオンワード、しまむらなど、実店舗を有しながらECも手がける複数の企業がこれまでに公表済みだ。そのほか百貨店や家電量販店など、ECチャネルを持つ実店舗企業も施策や指針を公開している。
まとめ
指針策定後に重要となるのは、それが“絵に描いた餅”ではなく、接客現場でいかにスムーズに運用できるかという点だ。従業員を守るための体制を事業者が責任を持って整えることが指針の要となるため、経営陣の本気度が試される。
正当なクレームとの線引きなど難しい部分もあるが、現場の声に耳を傾け事例を積み上げていくことで判断力が高まり、知見も蓄積されるだろう。本気で取り組めば職場の雰囲気や居心地も良くなり、従業員の定着化や生産性向上につながることになる。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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