2026.04.23 通販会社
第一歩は「顧客を知ること」!LTV最大化に向けたファンケルの顧客育成施策とは?(上)
ファンケルは数年前からデータ分析を強化し、顧客セグメント別アプローチを進めている。分析を通じそれぞれの特徴別に顧客を知って理解したうえで、さまざまな打ち手を実行してきたところ、年間購入回数やリピート率が大幅にアップした。今後は2026年3月に始動した長期経営構想「ファンケル・ビジョン2035(FV2035)」に向け、ECと店舗のOMO施策などにも本腰を入れる。マーケティング推進統括部門でオムニチャネル戦略などを手がける石川雅俊氏と佐藤眞梨氏に、これまでの取り組みや今後のミッションを聞いた。(上・下の2回に分けて掲載)
顧客獲得コストの大幅アップで既存顧客へのアプローチを強化
——コロナ禍明けの2022年頃から顧客マーケティングのさらなる強化に踏み切ったが、その背景や理由をうかがいたい。また、取り組み全体のスキーム構成はどのようなものだったのか。
石川:背景については、コロナ禍によってデジタルシフトが進み、海外ブランドも含めて競合他社が相次ぎ参入してきたため、新しいお客様の獲得コストが大幅に上がってしまったことが大きな要因と言える。それによって従来と比べて成長性や収益性の担保が非常に困難になってきたので、既存のお客様にフォーカスし、もっと何かのアプローチができないか考えることにした。
現在はオムニチャネル本部となったが当時は通販営業本部であり、コロナ禍明けの危機感により、もう一度原点に戻って「ファンケルの強みってなんだっけ?」と再確認することにした。化粧品と健康食品の両事業で多様な商品がたくさんあったり、膨大なデータを保有していたり、さらにそれによってお客様理解ができていたりなどの強みを、もう一度振り返って確認。創業時からお客様の不安や不満をなくす「不の解消」が企業理念だったので、それをしっかりと体現し「お客様をもっと知ること」が重要だと思った。
そのためにはデータをこれまで以上に活用し、ソリューション型商品によってさらなる「不の解消」につなげようという原点に戻った。成長性や収益性の伸張も大切だが、ファンケルの商品を使って喜んでいただくという企業理念が重要なので、それが伝わるようにお客様理解をさらに進めたいと思った。
実はそれまで、どういう商品をどういう組み合わせで購入するお客様がどの程度いいらっしゃるのか、当社が発信するコミュニケーションに反応してくれたり、見てくれたりするお客様がどの程度いらっしゃるのか、意外と理解していなかった。顧客分析を進めていくと、長く購入してくれているお客様の中に、もっとファンケルを好きになってくれるのではないかと思える方たちがたくさんいたので、その層をさらに育成できる余地があるのではないかと。実際にこれまでの打ち手も新規やロイヤリティの高い人向けが中心であり、育成余地がある層にはあまり実施していなかったこともわかってきたので、まずはそういうお客様層に絞ってトライしてみようということになった。
——その背景は2024年にキリンホールディングス傘下になったことと関係があるか。
石川:今話した背景は2022年当時の話なので、まだ子会社化される前だった。ただ、通販やECには当社の 40年以上の歴史や強みが凝縮されている。ここを研ぎ澄ますことで、キリングループ全体に対しファンケルのプレゼンスを上げられると思った。
創業時から「不」の解消に取り組む(出典:キリンホールディングス)
ウェブやアプリに加え刷新した紙の情報誌も活用
——既存顧客の育成が本日のテーマではあるが、その前に少しだけ新規客開拓についてもうかがいたい。現状ではどのような手法を使っているか。
石川:それぞれ強弱はあるが、広告や検索、SNS、メール、アプリ、DMなど通常の手法は実施している。ただ、ダイレクトレスポンス広告だと従来に比べて獲得効率が下がったので、2022年以降は啓発型の広告にも会社として投資をしてきた。
また、お客様を増やすことについては、離反のお客様にフォーカスした取り組みも強化してきた。広告の高騰や競合の増加などで新規の開拓が困難な中、購入経験やデータがある離反のお客様は大切だ。そのため、購入を促す取り組みを定期的に手がけている。
2023年からアプリやメール、LINEなどへの登録や閲覧の増加を目指し、つながり強化やコンタクトポイント拡大に取り組んだ。その結果、離反傾向にあるお客様にもさまざまな角度から多様な情報を届けられるようになった。一番到達度が高いのはDMだが、紙はやはりコストがかかるので、離反のお客様にどこまで力を入れどこまでコストをかけるべきかを全体のバランスを見ながら実施している。
離反のお客様の復活も顧客獲得であるという考えからだったが、こういった手法ができるようになったのも、佐藤が中心となって推し進めた顧客分析によりお客様ごとの状況を可視化したこと、さらにお客様ごとのコストの可視化ができるようになったためだ。
——到達度の効果から紙のDMは有望ツールということだが、紙媒体では40年間続いた既存顧客向けの会員向け情報誌を刷新し年代別に2冊に分冊化した。現状での紙媒体のメリットとは何か。
石川:お客様インタビューでは、一覧性があって折りに触れて見返すことができ、落ち着いて振り返って楽しめるというご意見が多い。こんな商品があったのかなど新たな気づきがあるそうで、やはり紙ならではのロイヤリティが醸成できるのではないかと思う。今はウェブの更新や発信がリアルタイムに近く、アプリとも連動しているため、そこから迅速な情報を引き出しやすい。一方で紙ならではの良さもあるので、紙媒体とアプリやウェブ媒体それぞれの役割を意識しながら、どちらも活用してもらえるようにしたい。
——紙の情報誌はコストがかかるが、どういった顧客に送付しているのか。
石川:全員ではなく、バランスを考えながらセグメントして送っている。長期の離反のお客様やライトすぎる方にはかえって迷惑になってしまうので、例えばDMのようにもう少し軽めの媒体でやり取りした方がよいのではないかと。そのため、情報誌を送るのはファンケルに対し共感度や愛着みたいな気持ちを持ってくれていそうな方たちが中心となる。購入いただいた商品に加え、同じような悩みならこういう商品もありますよというように、情報誌によるコミュニケーションが適切なお客様かどうかを常に見極めている。その方にどんな打ち手をしてどのくらいのコストをかけているのかなど、全体を見極めながらチューニングして送付対象者を決めている。
石川雅俊氏
購買履歴中心だったデータ分析を“つながり行動”重視の仕組みへと転換
——それでは佐藤さんに、本日の取材テーマである既存顧客の顧客分析と育成手法についてうかがうことにする。
佐藤:当社のお客様データは大変豊富だが、少し前までは通販のお客様も店舗のお客様もやはり購買履歴を中心にデータを見ていた。しかし、我々のミッションとして既存のお客様の価値を最大化していこうと考えた時、本当にそういった手法でよいのかと。例えば購入前の行動はどうなのかということや、我々がお客様に伝えたいことがきちんと届いているのかなど、見直していく必要があるのではと思った。
具体的には購買だけではなくつながりという“行動”を重視しようと、まずはメルマガやアプリ、 LINEといったコンタクトポイントを増やすことに注力した。さらに、ウェブのこの記事は見ているけれど購入には至っていないとか、登録履歴や購入履歴などをチェックしながら、どういう状況になるとLTVが高まるのかという観点での分析を手がけた。
弊社のオウンドメディアに、美容と健康にまつわる情報を豊富に発信する「ファンケルクリップ」という記事があり、さまざまなメンバーが毎月更新している。商品を売るだけではなく、お客様の美と健康に関する不安・不満を解消したいとの思いから、発信情報を楽しんでもらおうという目的で展開。静的かつ一方通行の記事だけでなく、動的かつ双方向のライブショッピングといったコンテンツもあるため、まずはそのようなコンタクトポイントに触れてもらい、その先にあるお客様の行動や体験などをデータとしてきちんと見ていこうということになった。
佐藤眞梨氏
顧客特徴に合わせセグメント別の打ち手を実行
——育成プログラムでは下記の図表のようにセグメント別のアプローチを実施しているが、それそれの手法について具体的にうかがいたい。
佐藤:現在は特徴に合わせてお客様を分けて見るという「セグメント別アプローチ」を行っている。「年間購入金額」とお客様になってからの「経過年数」の2つの軸をもとにした図表を作成し、切り口となる特徴をA~Dのセグメントごとに分類。この層のお客様はこういうふうに育てていこうというプランを考え、それぞれの層に向けたアプローチを実施している。
例えば、2つの軸の実績が最も低い A層には新規客や当社とのお付き合いが浅い方が多いため、紙の情報誌だと少し内容が散漫になったり重くなったりしてしまう。好きになっていないのにラブレターをいっぱい渡されたら嫌みたいな感覚と一緒なので(笑)、興味のありそうな情報を中心にそれと親和性のある情報や商品を提案する。
A~D層のセグメント別図表(出典:ファンケル)
——A層へのアプローチツールには何を使うのか。
佐藤:やはりコンタクトポイントを意識しながら、デジタル登録者にはメールやアプリ、LINEでアプローチする。意外にも通販ではまだメールが健在で、お客様にとって必要と感じていただければメールでのアプローチもある程度反応がある。デジタル未登録者には紙のツールとなり、主にお届け商品と一緒に同梱するツールやDMで接触する。
通販の場合は、商品を届ける際に同梱できるツールがある。A5サイズくらいの冊子を中心にお届け梱包箱に入るサイズ感で、購入商品等に応じて、美や健康のライフスタイルを提案する記事や写真に合わせて商品を紹介。1冊で親和性のある複数商品の併売を促進することにより、部署の垣根を超えた連携にもつながっている。こういったツール作成のポイントとしては、「安く買える」ということではなく、「ファンケルならばこういったサポートができますよ」ということをお伝えするよう意識している。
また、商品同梱ツールだけではなく、DMもお客様に応じて情報とともに商品のご提案を限定価格のオファーで送付している。
今までの知見といえば商品に紐づいた施策という軸での考え方だったが、最近のこういったツールはお客様の悩みなど顧客軸での打ち手を考えていこうというように、以前と比べだいぶ変わってきた。どのお客様にどのクーポンを送り、誰が使ったかなども部署間で連携するように変わってきており、そこに紐付いてお客様ごとのコストを可視化している。すると、この層にコストが偏りすぎていて本来育成すべき層にあまりお金をかけていないとか、全体の中でもう少しお金の使い方を見直してみようかという課題も見えてくる。その結果、コストのバランスや優先順位をできるだけ調整するようになった。
——セグメントがその上となるB層についてはどうか。
佐藤:この B層は結構難しい特徴の方たちで、初回購入からある程度のお付き合いはあるものの購入金額が低く、中には離脱しそうなお客様もいらっしゃる。その層をなんとか育成していくために、クローズドの施策などを手がけている。例えば、お客様の声から「送料が気になる」「商品が多くてどれを選べばよいか迷う」といった購入に至らない理由をお聞きし、そういう方たちに買ってもらえるような期間限定のプログラムを用意した。
プログラムのご案内手紙を封書に入れてDMで送るが、期間限定での送料無料や商品価格割引、お試しセットプレゼントなどを特典として付けた。QRコードのワンクリック投票で第2弾の特典が決まる参加型企画など、顧客のジョイント意識を誘発する仕組みも盛り込んでいる。お客様の反応が得られるかのテスト的な展開ではあったが、想定よりも反響があった。その時どきのお客様の心情や行動を意識して企画を考えるようにしている。
石川:さらに、ここからはECサイトの見直し施策になるが、ではそういったライト層がEC サイトを来訪した際にサイトはどうなっているべきかが重要と考え、ライトユーザー向けのヒアリングを実施。その意見を参考に、目的買いが多いライト層がその商品がある場所まで最短距離で行く動線の中に、いかに他の商品やファンケルの特徴などのコンテンツを入れ込むかEC サイトを見直した。
ヘビーユーザーは商品画像だけあってもその商品特徴を理解しているが、ライトユーザーは画像だけではわからないので、特徴も明確に出しておくなど、細かい部分を改善。レコメンドエリアについても掲載場所を上部の目に付きやすい所に移動させるなど、ライト層を意識したサイト構成や見せ方を取り入れた。その結果、PV数が大幅にアップした。
——紙のツールとサイトの両方でB層の顧客価値アップにつなげているわけだが、その上のC層へのアプローチはどうか。
佐藤:ロイヤルまでは行かないけれどある程度購入してくださっている層なので、さらにアップが見込める可能性がある。ただこの層は、商品ごとに各担当から案内が届いているなど施策がバッティングしているケースが多かったので、まずはそこを整理した。
C層の特徴としては、化粧品は複数商品買っているけれど健康食品は買っていない、逆に複数の健康食品を買っているが化粧品は買っていない方がある程度いらっしゃる。そこで、両事業を超えた商品クロスセルを強化していく施策を中心に展開した。化粧品と健康食品それぞれの事業を紹介する圧着ツールを両方用意し、商品や情報誌と一緒に届けている。化粧品のお客様に単にこの健康食品いいですよって言ってもあまり響かないので、気になるポイントや摂取するとなぜよいのかということを読み物風にイラストとかも交えながら分かりやすく案内し、わりとよい反応をいただいている。
ほかには主に BC 層をターゲットにしたオープンのキャンペーンとして、去年の7月から今年4月末までECサイト上でオンライン遊園地「FANCL LAND」というキャンペーンを実施。ルーレットを回してのポイントプレゼント企画や、ファンケルの推し商品を投票する総選挙など、参加型企画も盛り込んで楽しんでもらうようにした。
狙いとしてはECの回遊率を高め、その中で商品と出会っていただく。単にお得ですとアピールすることではなく、回遊してもらいアクションにつなげるためのキャンペーンとなる。顧客行動が活性化されることにより、商品と出会って理解したうえで購入していただくという流れを作ろうとした。
——最後はロイヤルユーザーのD層になる。
佐藤:D層にはロイヤル限定の案内サイトを用意しており、ロイヤルユーザー限定のサービスや、リアルまたはオンラインでの体験イベントを提供している。例えばファンケル銀座スクエア店舗でのお肌チェックやメイク体験、心の健康をテーマにしたお寺での座禅体験などで、その都度企画担当者が考えながら実施している。
ロイヤル層には、30~40年もファンケルを使ってくださっている方たちも多い。肌荒れでとても悩んでいたのがきっかけで、藁にもすがる思いで使ったら肌荒れが治ったなど、ずっと続けてくださっている。そういうお客様には価格訴求というよりも、感謝と特別な体験を提供するというアプローチで展開している。
※次回(下)に続く
インタビュー・執筆/渡辺友絵
▼石川雅俊氏プロフィール
(マーケティング推進統括オフィス オムニチャネル本部 戦略企画部 部長)
2000年にファンケル入社。IT部門にてDWH/BIツールの企画・運用・活用推進、ERP(企業資源計画)・業務改革等のプロジェクトに従事し、その後、通販のCRM・戦略部門でデータを活用した顧客価値向上の推進に取り組む。2023年から通販全体の戦略策定や推進、顧客分析や顧客育成、サービス変革などを手がけ、現在はオムニチャネルによる企業価値向上を進めている。
▼佐藤眞梨氏プロフィール
(マーケティング推進統括オフィス オムニチャネル本部 顧客育成推進部 カスタマーグロースグループ 主査)
2014年にファンケル入社。店舗や電話窓口で顧客対応業務を学び、2015年以降は通販部門で主に健康食品の販売企画に従事、キャンペーンの企画立案や継続購入の促進に携わる。2021年には通販のCRM業務に従事し、データ分析から方針立案、実行、検証までを一貫して手がける。2026年からは通販と店舗の垣根を越えたオムニチャネルによる企業価値向上に取り組んでいる。
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。
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