2026.03.09 通販会社
商品開発からCRMまで「顧客起点」を貫く、ZENBに学ぶD2C成長戦略
「ZENB」を展開する株式会社ミツカングループの株式会社 ZENB JAPAN。2018年のブランド立ち上げから7年が経ち、パン・麺・スープなど多彩なラインナップを揃え、D2Cを中心に着実にファンを広げてきた。その成長の背景にある「顧客起点」の商品開発哲学、全部門が関与する継続率戦略、同梱物とデジタルを組み合わせた顧客体験の設計まで、商品企画担当の金田志穂氏とダイレクト部 部長の和田悠氏に話を聞いた。
「お客様になりきる」ことを軸に、ペルソナを設定しない商品開発
――試作段階で顧客にプロトタイプを送り意見を得る際、フィードバックをどのように商品に反映していますか?
金田志穂氏(以下、金田):開発段階では「お客様になりきる」ことを大切にしています。インタビューを通じてお客様の気持ちや生活を深く知り、自分がお客様だったら何を求めるかを考えながら商品をつくる。そのプロセスを踏んでいるので、開発者のこだわりとお客様の要望が正面からぶつかる場面はあまり生じません。
いただいた声はチーム全体で共有し、「こういう方が多いね」「ここは共通して求められているね」といった形で商品づくりに反映しています。インタビューの内容もアンケートのデータも、開発の判断材料として対等に扱う。それがZENBの商品開発の基本的なスタンスです。
――ペルソナは設定しないのでしょうか?
金田:あえて明確なペルソナを設定しない戦略を取っています。実際に使ってくださる方はさまざまな背景や目的をお持ちで、一つの人物像には収まりきらない。それよりも、リアルなお客様の声を直接聞き続けることの方が、商品の精度を高めると考えています。
「顧客の声は資産」は全社の合言葉であり、ミツカングループのDNAでもある
――顧客の声を大切にする文化は、どのようにつくられてきたのでしょうか?
金田:「顧客起点」が私たちの合言葉で、開発チームに限らず会社全体がそのマインドで動いています。意思決定の場でも顧客の声は重要なデータや根拠として扱われるので、メンバーは自然とお客様の声を資産と捉えています。
開発メンバーは味への感度が高い分、お客様が感じてこそのこだわりを追求する、というスタンスで動いています。ほんの少し美味しくなってもコストが上がり価格に転嫁されるなら、そのこだわりはいったん置いておいてお求めやすい価格で届ける。ただ、お客様が「美味しい」と感じる工夫があれば、絶対に妥協しないで入れ込むというこだわりは持ち続けています。
和田悠氏(以下、和田):補足すると、ミツカングループの企業理念のひとつに「買う身になって、まごころこめてよい品を」という言葉があります。相手の立場に立って考えるという姿勢を現代の言葉に置き換えたのが「顧客起点」です。その理念がDNAとして組織に根付いているからこそ、開発の現場でも自然にそうした取り組みになっていると感じています。
商品企画担当 金田志穂氏(右)ダイレクト部 部長 和田悠氏(左)
ブランドの成長から逆算した長期ロードマップと、全員が手を挙げて初めて迎える発売日
――時間軸の異なる複数の開発ラインを並走させる際、社内ではどのように管理しているのでしょう?
金田:商品ポートフォリオはブランドの成長から逆算してロードマップを描き、そこへ向かって開発を進めています。ZENBブレッドのように新技術や専用の生産ラインが必要な商品は、ブランド立ち上げ当初から開発を続け、納得できる品質に達したタイミングで発売しました。3〜4年かかることもあります。
一方、黒ごまあんやきなこあんのような追加フレーバーは、既存技術を活かしてスピーディーに開発します。長く楽しんでいただくために常に新しい選択肢を用意しておくことは、お客様の満足度を高める上でも、ビジネス上も欠かせない取り組みです。
――「発売できる」と判断する基準は何でしょうか?
金田:社内では試食調査の評点基準を設けていますが、それはあくまで最低ラインです。開発者やチームメンバーが実際に食べたり使ったりして「これなら出せる」と感じられるかどうかが大前提で、明確なKPIというよりは、品質への納得感と実現可能なコストが揃ったときに発売するというイメージです。
和田:世界的に著名なパン職人に事前に評価してもらうこともありますし、たとえば「紅茶オレンジ」という商品では発売前に100名ほどに試食してもらいスコアを取りました。最終的には、自分が胸を張ってお客様に届けられると確信できる状態になったとき。数値はその確認のためのツールであって、ネガティブチェックの役割です。
――長期プロジェクトにおいて、社内のモチベーションをどう維持していますか?
金田:各プロジェクトの進捗を月1回、管理チームが社内報としてまとめて発信しています。直接関わっていないメンバーも状況を把握できる仕組みです。また半期に1度のタウンホールミーティングでは、社長も出席してプロジェクトの現状と今後の方向性を全員で共有します。
和田:また、発売3ヶ月前に行われる社内説明会も大きいです。一般職も含めて試食しながら商品の背景を知ると、一気に愛着が生まれる。さらに毎週の進捗ミーティングにほぼ全員が参加していて、半年後の商品導入に向けた進み具合をリアルタイムで共有しています。新商品が出ると購入点数が増えたり、休眠していたお客様が戻ってきたりと販売にも直結するので、販売チームとしても新商品の発売を心待ちにしています。
継続率は販売部門だけでは動かせない、事業全体が一丸となって追う指標
――継続率を中心に据えたCRM戦略について教えてください。
和田:長期的な利益を考えるとき、お客様の満足度が最も見えやすい指標が継続率だと考えています。ただ、継続率は販売部門だけでは動かせない指標でもあります。商品の美味しさや価格、どのように獲得したか、配送の精度、問い合わせ対応の質、決済エラー時の対応、これらすべてが継続率に影響します。
だからこそ、バックオフィスも含めた全部門が同じ認識で継続率向上に取り組むことで、数字が動く。継続率という共通指標があることで、事業全体が一つの方向に向かっていける仕組みになっています。
――全部門を巻き込むための具体的な取り組みはありますか?
和田:毎月、社長も同席する場でお客様からのVOCをレビューしています。配送・EC・定期便・商品へのコメントをまとめて、その月のトピックと課題、現在の対応状況を報告する場です。ポジティブな声は自然と目に入るので、改善につながる声こそ全員でしっかり共有するようにしています。腹を割って話せる場を持つことが、全部門の自分事化につながっていると感じています。
たとえば年末年始の配送については、元日を過ぎると注文が急増するため、いかに事前の案内を丁寧に行うかを毎年アップデートしています。電話とメールで月5,000件近い問い合わせをいただいていますが、その一つひとつが改善のヒントになっています。
「ZENBジャーナル」から「失敗しないレシピ」への転換は継続率データが背景
――同梱物を「ZENBジャーナル」から「失敗しないレシピ」に絞り込んだ背景を教えてください。
和田:判断の軸は、継続率への貢献度でした。食品を届ける以上、お客様が最初にどう商品と出会うかがその後の継続を大きく左右します。麺なら茹で方ひとつで味わいが変わりますし、パンも温め方のちょっとしたコツで食感がまったく異なる。「最初の体験を成功させること」がお客様に長く使い続けてもらうための最も重要な施策だとデータでも確認できたため、そこに集中することにしました。ジャーナルは読み物として好評でしたが、継続率への貢献を数値で把握しにくかった。一方でレシピを入れると継続率が改善するデータが出たことも、切り替えの決め手になっています。
――レシピの内容は定期的に見直しているのですか?
和田:はい。同梱物については定期的にアンケートを実施し、「記憶に残っている同梱物」や「今後も入れてほしいもの」を聞いています。現在は5メニュー程度を掲載していて、美味しさや調理の手軽さなど複数の項目で評価を取り、より良いものへ入れ替えていく。季節に合わせて内容を変えることもあります。
――レシピ開発でこだわっている点はありますか?
金田:ちょい足しアレンジの提案には特にこだわっていて、1フレーバーにつき30種類以上を実際に試した中から選んでいます。手軽にできて美味しさが際立つ、かつ意外性があるものを意識しています。バターは定番ですが、醤油は思いつきにくいものの大抵のご家庭にある。試すと甘じょっぱい味わいになり、おやつだけでなく昼食の小腹満たしにもなる。そういう「意外だけど試してみたくなる組み合わせ」を提案することを大切にしています。
「届いた瞬間」から「次の注文」まで4つの局面を設計し最初の1週間に全力を注ぐ
――お客様に長く使い続けてもらうために、体験設計でとくに力を入れている点を教えてください。
和田:商品が届いた瞬間・開封した瞬間・初めて食べた瞬間・次の注文を決める瞬間、この4つの局面を意識して体験を設計しています。届く前日には「もうすぐ届きます。こんな食べ方はいかがですか」という情報を添えたメールを送り、最初の体験をより良いものにするためのフォローも丁寧に設計しています。最初の1週間に最も力を注いでいます。
――デジタルでのコミュニケーション設計はどのように?
和田:メールとLINEを軸に、購買ジャーニーに沿ったシナリオを設計しています。初めて定期購入いただいてから75日間は、3日目・7日目・14日目というタイミングでコンテンツを届ける設計です。購入が途切れたお客様へのアプローチや、クレジットカードの有効期限切れ前の案内、誕生日のタイミングでの連絡など、それぞれにシナリオを用意しています。
メールとLINEの使い分けは内容によります。レシピのようにじっくり読んでほしいコンテンツはメールが適していますが、単発のセール案内など即時の反応が必要な情報はLINEの方が効果的です。
――発売後のアンケートはどのような内容で、改善にどう活かしていますか?
和田:新商品の発売から約1ヶ月後、購入者全員にアンケートをメールで送っています。15問ほどの設問で良かった点・改善してほしい点を幅広く聞くと、2割近くのお客様から回答が集まります。それだけ関心を持っていただいていることに感謝しながら、フィードバックは迅速に反映しています。パッケージの変更には時間がかかりますが、同梱物の文章やサイト上の表現なら即日変えることも可能です。改善した内容をお客様にメールでお知らせするケースもあります。
お客様同士の熱量がブランドの力になるファンコミュニティが生み出す価値
――ファンコミュニティ「ZENPEOPLE」への取り組みについて教えてください。
和田:コアなファン50名ほどを招いた食事会を開催したことがあります。私たちとお客様の結びつきはもちろんですが、参加されたお客様同士が非常に盛り上がっていたのが印象的でした。ROIを数字で測ることの難しさは感じつつも、ブランドへの深い愛着が生まれているのは確かで、こうしたコミュニティに関わった社員のモチベーションも目に見えて高まります。
金田:実際にお会いしてお話しすると、熱量の高い方が本当に多くて。「開発してくれてありがとうございます」という言葉を直接いただくと、大きな励みになります。
――7周年を迎え、次のフェーズで目指すものは?
和田:ZENBは「365日6食」という考え方を大切にしています。1日1食でも取り入れて食習慣の一部にしてもらえれば、健康的な食生活を送る人が増え、世界が少し豊かになると信じています。現在はパンと麺がメインですが、スナック系やカップ系など間食や簡便食の領域にも広げていく計画です。国内にとどまらず、アジアを起点にした越境ECやグローバル展開も視野に入れています。
――規模が拡大する中で、コアなファンとの共創スタイルはどう受け継いでいくのでしょうか?
和田:より多くの方にZENBの価値を届けていきたいという考えは変わりません。ただ、無理に広げようとするよりも、ZENBの価値を正しく伝えることができれば自然と広がっていくと思っています。体にいいのに美味しい、美味しいのに体にいい、そういう商品はなかなかありません。それが私たちの本当の強みだと思っています。
金田:食シーンや生活スタイルが異なる方々にも取り入れていただけるよう、商品の幅を広げていきたいと考えています。ただ増やすのではなく、「ZENBからこの商品が出たら嬉しい」と思っていただけるものを積み重ねていきたいですね。
――ありがとうございました。
▼株式会社 ZENB JAPANのサイトはこちら
https://zenb.jp/
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